鮮魚を用いたヤナギムシガレイの人工授精

2020年 JAA第1回水族館研究会

 新田誠 1), 八木佑太 2)
1) 新潟市水族館 展示課  2) 水産研究・教育機構 水産資源研究所 

ヤナギムシガレイTanakius kitaharaiは,北海道以南の日本沿岸に分布するカレイ科ヤナギムシガレイ属の魚であり、水深100~400mの砂泥底に生息する.日本海側では高値で取引される重要な水産資源であり,新潟市においては全国に誇る魚として,食の銘産品に指定されている.本種は,主に底びき網により漁獲されるため,親魚の生体での確保が難しい.当館では地域を特徴づける魚として本種の飼育に取り組み,漁獲された鮮魚を用いた人工授精による育成研究で成果を得たので報告する.
本種の産卵期は1~3月であり,2017年2月と3月に,新潟漁協新潟支所に水揚げされた鮮魚を用いて人工授精を実施した.採卵は,メスの腹部を圧迫して採卵する搾出法を用いた.採精は,搾出法では放精しないため,オスから精巣を取り出して細かく刻み,予め作成しておいた人工精漿に浸し,ネットで濾して精液を採取した.受精には乾導法を用いた.受精卵は,天然海域の表層水温と同じ約12℃で管理した.ふ化仔魚の育成は,約15℃で行い,着底後は約11℃とした.
親魚は,漁獲直後に海水に氷を入れた容器に収容し、低温で鮮度保持した状態で港まで輸送した.漁獲から人工授精までは,3時間以上を要した.人工授精は2検体で実施し,受精卵数は,2月が2,200粒(受精率33.4%),3月が200粒(受精率28.6%)であった.卵の管理は水温12.5(±0.48)℃で行ない,受精後5日目にふ化,ふ化仔魚数は2月では1,000個体(ふ化率44.6%),3月では0個体(ふ化率0%)であった.仔魚の育成は,水温14.9(±0.40)℃で行った.ふ化後3日で開口した.開口直後から,SPC(クロレラ工業㈱)で栄養強化したシオミズツボワムシを10個体/mlになるように給餌した.ふ化後23日目で斃死が目立ったが水温を10.9(±0.31)℃にすることで沈静化,ふ化48日目で着底個体が現れ、約200尾が着底した.
本種の天然魚による人工授精に関しては,1998年に新潟県水産海洋研究所で実績があり,受精率17.8%との報告がある.本研究の鮮魚による受精率は、生体による受精率を上回る28.6~33.4%であり,鮮魚による人工授精の有効性が認められた.2020年には,親魚の生息場所と同じ約12℃で鮮魚を輸送し人工授精を行った結果,受精率40~65%(n=2)で,生息深度と同じ水温で鮮魚保持すると,受精率が向上する可能性が示唆された.

ヤナギムシガレイ Tanakius kitaharai

ヤナギムシガレイ Tanakius kitaharai

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