調査・研究

研究会発表 抄録集

クロベンケイガニの飼育下繁殖について ~アカテガニとの種間比較~

2017年 北海道・関東東北ブロック水族館技術者研究会

展示課 原田 彩知子



クロベンケイガニ Chiromantes dehaani は十脚目ベンケイガニ科アカテガニ属に分類される陸生のカニで,太平洋側は宮城県以南,日本海側は青森県以南,南西諸島,台湾,中国,韓国に分布する.本種のゾエア幼生から稚ガニにいたる飼育知見は少ない.飼育下繁殖による育成記録を報告する.また,近縁種のアカテガニとの比較も行う.
親個体は2015年6月21日に阿賀野川河口域で採集した.同年10月3日にアクリル水槽に,オス1個体とメス3個体を収容し,展示した.室温25 ℃,餌は冷凍アカムシ,冷凍アルテミア,エビカニ用配合飼料を週5回の頻度で与えた.2016年2月7日に抱卵を確認し,幼生放出前に海水を4 L入れたポリプロピレン製水槽へ移動した.2月24日に放出されたゾエア幼生を発見し,クレーゼル水槽へ収容した.止水下で弱く通気を行った.毎日1/3換水を行い,ワムシと冷凍緑藻類を与えた.メガロパ期で海から河口へ遡上することから,メガロパ幼生を確認後は9日かけて1/4海水まで希釈した.餌は上記に加えて栄養強化したアルテミアノープリウス幼生も与えた.着底後のメガロパ幼生は,1/4海水を2 L入れた円形のガラス製容器に移動し,餌は冷凍コペポーダに変更した.稚ガニには冷凍コペポーダ,冷凍アルテミア,エビカニ用配合飼料を与えた.
クロベンケイガニの抱卵期間は13~16日,アカテガニ19~28日であり,25 ℃設定下では年中抱卵した.クロベンケイガニの脱皮は水温24.0~26.0 ℃下にて約3日間隔で観察され,アカテガニは約4日間隔だった.メガロパ幼生は13日齢,稚ガニは23日齢から見られはじめ,アカテガニ (メガロパ期17日齢,稚ガニ28日齢から) に比べて早く変態に至った.アカテガニは513日齢から繁殖を確認した。今後は同条件におけるクロベンケイガニの繁殖開始齢を確認したい.


キタノアカヒレタビラの人工授精による繁殖

2017年 JAZA関東東北ブロック水族館技術者研究会

展示課 田村広野,大野美優

キタノアカヒレタビラAcheilognathus tabira tohokuensisは,コイ科タナゴ亜科タナゴ属の日本固有亜種の淡水魚でイシガイ科二枚貝の鰓内に産卵する生態を持つ.減少が著しく環境省レッドリストでは絶滅危惧IB類(EN)である.秋田県,山形県,新潟県,福島県に分布するが,新潟県は分布の南限にあたり,生息地は局限的で生息数も極めて少ない.2015年に本種の集中的な調査を行い,生息地一箇所を確認して野生個体を導入した.2017年,11個体を飼育する展示水槽(水量3.0m3)から,雌は腹部膨満と産卵管の伸長と雄からの追尾,雄は婚姻色と雌への追尾により成熟個体を判別し,①4月4日②4月23日③5月6日の計3回,雌雄1個体を親魚に用いて搾出法により人工授精を実施した.採卵,採精はガラス製シャーレ(φ90mm×H20mm)を用いて,①50粒②58粒③31粒を採卵した.卵と精子を揺すって混合し、10分間程静止状態にして授精を促した後,親魚の飼育水で何度か換水し精液や粘液を洗い流し,複数のシャーレに分けた.この後は20.0℃の恒温室の暗所で管理した.数時間後,汲み置きして水温を合わせた飼育用淡水(水道水にチオ硫酸ナトリウム添加)で換水した.翌日から毎日,同様の方法で換水を行った.各回共,2日後に孵化した.人工授精から①28日②24日③19日後に頭を上にして泳ぐ仔魚を確認したため,3時間ほど明るくして浮上を促した後,①21個体②51個体③25個体を水温20℃の60cm水槽へ移動した.①はアルテミアを給餌したが,移動から6日後に全個体死亡した.②③は3日間,S型ワムシを与え,その後3日間はS型ワムシとアルテミア,続いてアルテミアや強化アルテミアを給餌した.7月8日から配合飼料も給餌し,2017年10月現在,最大で全長約6.0cmに成長し,②20個体③11個体が生存している.


飼育下におけるロクセンスズメダイの育成

2015年 第60回水族館技術者研究会

展示課 西村祐加里,澁谷こず恵,新田誠


ロクセンスズメダイAbudefduf sexfasciatusは,神奈川県三浦半島~琉球列島の水深1~20mに生息するスズメダイ科オヤビッチャ属の魚類である.2014年6月に水量40㎥,水温21.5℃の水槽で擬サンゴを産卵床とした自然産卵が観察されたため,育成を開始した.本報告は,2015年8月29日に採取した卵から仔稚魚の育成にともなう個体の形態変化を記録したものである.卵は,孵化直前に産卵床ごと取り外し,500Lパンライトに収容した.飼育水は循環させ, 起流ポンプ(Koralia 5200:Hydor)を用いて5秒間隔で水流を当てた.照明は30W蛍光灯を日中のみ点灯した.孵化後は,産卵床を取り出し,仔魚の育成を行った.飼育水は循環させ,冷凍ナンノ(K-2:クロレラ工業)を15g/日添加した.照明は24時間点灯し,稚魚期以降は夜間に消灯した. 水温は,仔魚の成長促進を目的に,卵管理時は約27℃,仔魚育成時は約28℃に設定した.15日齢で育成個体が2個体となったため,以降の記録は生体観察とした.孵化後0-12日齢まで栄養強化(SCP:クロレラ工業)したS型ワムシを給餌し,11日齢からは強化アルテミアを併用給餌した.卵は長径1.32±0.03mm,短径0.59±0.10mm(n=5)の繭型をした付着沈性卵で卵黄が赤色を呈していた.産卵から最初の孵化までは,121時間を要した.孵化仔魚は,全長2.89±0.03 mm(n=5)で,油球(0.26±0.03mm)が卵黄(0.44±0.01mm)の腹面前方に位置していた.黄色素胞が卵黄上部および眼の後端から第3筋節にかけて密に見られた.口の形成は認められたが開口はしていなかった.開口は12時間後に確認された. 16日齢で1個体が着底し,稚魚期への移行が推測された.着底直後の体色は全身黒色を呈し,模様は認められなかった.23日齢で黒色横帯が4本出現し,25日齢で5本となった.30日齢で尾鰭上下両葉に黒色帯が現われ,成魚と同様の体色を示した.


キダイの人工授精と育成の試み

2015年 第60回水族館技術者研究会

展示課 新田 誠,吉田直幸


キダイDentex tumifronsは,青森県以南の日本海・千葉県以南の太平洋・東シナ海の水深80~200mに生息し,全長35㎝に達するタイ科魚類である.生体入手が困難なため,初期生活史に関する知見は乏しく,育成では,岡ら(1956)による1日齢までの記録しかない.育成個体の展示を目的として人工授精を試みた結果,1腹分の受精卵が得られ,8日齢までの仔魚の形態を記録した. 2015年10月16日に,新潟県長岡市の寺泊沖から親魚を入手した.雄は全長275mm,体重470g,雌は全長262mm,体重330gで,船上で搾出法による採卵と採精を行った.完熟卵と精子が同時に採取できなかったため,先に採取した精子を人工精漿中に保管し,完熟卵入手後に乾導法で受精させた.採卵数は約9,000粒で,受精率は約3%であった.卵は0.91±0.02㎜(n=10)の無色透明の真球形の分離浮性卵で,0.17㎜(n=10)の油球1個が認められた.水温22.7±0.7℃で,受精後36時間で孵化した.孵化仔魚は,全長2.00㎜(n=1)で油球は卵黄(長径0.83㎜)の後端に位置していた.筋節数は9+17=26で,黄色素胞が眼の後端,卵黄,尾部の第20~23筋節に見られた.2日齢(n=1)で眼の黒化,開口を確認,尾部の黄色素胞が消失し,卵黄の大部分が吸収された.6日齢(n=1)で卵黄と油球の吸収が確認された.育成水温は22.3±0.5℃で,12日齢まで生存した.受精卵は30Lパンライトで水温約22℃で管理し,孵化仔魚は500Lパンライトで約22℃で育成した.初期餌料には開口直後から栄養強化(SCP:クロレラ工業㈱)したS型ワムシ(約150μm)を15個体/mLで給餌し,飼育水には冷凍ナンノ(K-2:クロレラ工業㈱)を毎日15g添加した.開口直後の口径は130μm(n=1),1日後で185μm(n=1)であった.仔魚が卵黄吸収期以降も生存したため,S型ワムシは餌料として適合したと考えられた.


飼育下ウミガラスで見られた親以外の個体による抱雛行動

2024年 JAA 第5回水族館研究会

展示課 榊原陽子

 ウミガラスUria aalgeでは親以外の成鳥が雛を世話する行動が観察される.この行動が生じる要因として,①血縁選択による利他行動②互恵的利他行動③雛による親以外の成鳥の操作④雛による親以外の成鳥の誤認識⑤親以外の成鳥による雛の誤認識の5つの解釈が示唆されている(Birkhead&Nettleship,1984;Wanless&Harris,1985).新潟市水族館では,2024年ウミガラスの自然繁殖の機会を得た.そこで,飼育下ウミガラスでも親以外の成鳥による雛の世話行動が生じるかを調査した.
 観察対象は,繁殖した親一組(以下親AB), 生まれた雛1羽,親ABの2023年繁殖個体(性不明)1羽,非繁殖ペア一組(以下CD),ペアがいない雄1羽,の計7羽である.調査期間は,孵化日の6月27日から自力摂餌が安定した10月3日までの99日間.各個体の行動は,8時~17時の間,ランダムに1セッション1分~15分間観察した.親AB以外による雛への給餌は見られなかったが,CDによる抱雛行動が観察された.抱雛は主に親ABが離れて雛が単独でいる時に見られ,孵化日から巣立った7月23日までの27日間,188セッション中,抱雛回数は雌9回,雄3回であった.親ABは戻ると抱雛しているCDを排除する行動が観察された.親以外の成鳥による抱雛行動が生じる解釈として,利他行動は親ABがCDの抱雛を許容していないことから否定的な結果となった.雛が適応度を上げるためCDを操作したのであれば,親ABはCDの抱雛を許容しうるのでこの解釈も否定的である.雛による親以外の成鳥の誤認識は,親子間の認識が発達しているウミガラスでは極めて低いため,抱雛行動が生じた要因としては該当しないと考える(Birkhead&Nettleship,1984).5つの解釈の中では親以外の成鳥による雛の誤認識が最も妥当であると考える.雛の世話行動を引き起こす基本要因には様々なホルモンによる働きがあるが,雛からの視覚的,触覚的,嗅覚的,聴覚的刺激も必要であるため,雛の鳴き声などが刺激となり抱雛行動が誘発された可能性が示唆される.野生下に比べ飼育下では雛が単独でいる時間が短く,親以外の成鳥が抱雛する場面に親が遭遇する頻度が高いため,排除する行動が多く,抱雛頻度は低くなったと考えられる.
 親以外の成鳥による抱雛行動は利他行動などの適応的な解釈をしがちであるが,今回の観察結果からは適応的な解釈には疑問が残るものとなった.客観的に行動を分析することが求められる.

参考文献
Birkhead, T. R. and D. N. Nettleship. 1984. Alloparent care in the common murre (Uria aalge). Can J Zool 62:2121-2124.
Wanless, S. and M. P. Harris. 1985. Two cases of guillemots, Uria aalge helping to rear neighbours' chicks on the Isle of May. Seabird 8:5-8.


ウミガラス雛へのサプリメント投与

2024年 JAZA 第50回海獣技術者研究会

展示課 平山結,前田綾子,榊原陽子,川口顕良多,牧田楓菜,岩尾一

 新潟市水族館マリンピア日本海では,2021年3月にウミガラスUria aalgeを展示し,2023年6月に人工育雛,2024年5月に自然育雛の機会があり,雛へのサプリメント投与を実施した.2023年は抱卵中に起きた卵の水中落下により人工孵化に移行,産卵35日目で孵化し,人工育雛を実施した.雛の餌はワカサギ,マイワシ,イカナゴを1日2-4回手差しと置き餌で与えた.2日齢よりビタミン剤(Mazuri® 5TLC)をビタミンE 50-100 IU/kg(餌重量)となるように毎日与え,21日齢よりカルシウム不足予防のため,炭酸カルシウムを1日あたり62.5mg与えた.17-19日齢で与えたイカナゴで消化不良があった以外は順調に成育し,39日齢で展示を開始した.2024年も前年と同個体が産卵し,33日目で孵化した.雛の孵化後,親の餌をワカサギとオキアミのみに変更し,7日齢からキビナゴ,31日齢からイカナゴを追加した.ビタミン剤は2日齢より投与し,親が雛に1/2錠を詰めた餌を与えた場合は,その後数日間は未投与,親が与えなかった場合は,1日1回70-80尾(200-240g)に1/8錠ずつを詰めて与えた.70日齢で自力摂餌を確認し,自力摂餌が安定した86日齢からは1/3錠を1回目の全給餌量に詰めた.3-41日齢まで,雛が淡水魚を多く摂餌している場合,高度不飽和脂肪酸を補うため養殖魚用配合飼料(おとひめEP3)を,1日1回70-130尾(200-400g)に2-3粒ずつを詰めて与えた.雛は26日齢で巣立った.人工育雛,自然育雛ともに雛はその後も順調に成育している.ビタミン剤について,自然育雛時の摂餌量を人工育雛時と同量と仮定した場合,ビタミンE投与量はほぼ目標値となった.人工育雛時の炭酸カルシウム投与量は十分ではなく,投与量の4倍が適切であった.自然育雛時に投与した養殖魚用配合飼料については,淡水魚は体内で高度不飽和脂肪酸を合成できるため,餌のみで十分であり,投与は必要なかった.


プレドニゾロン投与中のカリフォルニアアシカで発症した深部皮膚トリコスポロン症

2024年 第30回日本野生動物医学会大会

岩尾一(新潟市水族館)
大村美紀(株式会社MycoLabo)
槇村浩一(帝京大学・医真菌研究センター)

【序】トリコスポロン属菌は土壌や水中に普遍的に存在する担子菌酵母で,人や動物で表在性から深部の皮膚感染症を引き起こすこともある.トリコスポロン属の分類は近年,大きく変わり,元来Trichosporon属とされていたものが5属に再分類され,菌種同定にはDNA解析が不可欠となっている.
【症例】新潟市水族館で飼育しているカリフォルニアアシカ Zalophus californianus(メス,26歳,体重 80 kg)が同居しているゴマフアザラシ Phoca largaによる咬傷で右後肢第5指に重度の裂傷を負ったたため,別室に隔離した(1病日).慢性のアクチノマイセス性下顎骨炎,腰椎の変形性関節症による疼痛を管理するため,当該個体にはアモキシシリン(500 mg PO bid),メロキシカム(10 mg PO sid),トラマドール(25 mg PO sid)を投与していた.隔離中に脊椎症を発症し,沈鬱,食欲不振に陥ったため,抗炎症量のプレドニゾロン投与を漸減投与した(5 mg PO sid(26-31病日), 2.5 mg PO sid(32-47病日),1.25 mg PO sid(48-56病日)). 60病日の時点で咬傷部の裂傷の回復傾向が無く,皮膚表面に多数の水泡状病変が出現,細胞診および培養検査で黄色ブドウ球菌が病変部から検出されたため,アモキシシリン・クラブラン酸の合剤(オーグメンチン250RS® )(1錠 PO bid)も追加した.64病日より皮膚の剥離,皮下組織と指末端組織の壊死と脱落が進行した.75病日に,脱落した皮下組織の水酸化カリウム処理後の標本の細胞診で,菌糸様構造物を確認したため,76病日からテルビナフィン軟膏の1日2回の局所塗布を開始したところ,病変の拡大は収まり,95病日ごろまでにはほぼ上皮化した.75病日に,脱落した皮膚片と皮下の壊死組織をクロモアガーカンジダ培地へ接種後,37℃で14日間の培養で,遅発育性の酵母型真菌による白色から赤紫色を呈するムコイド様コロニーが得られた.発育菌株はリボソームDNAのD1/D2領域を対象とした遺伝子同定で,Cutaneotrichosporon cutaneumと同定された.In vitroの薬剤感受性検査では多くのアゾール系薬に良好な感受性を示したが,テルビナフィンやキャンディン系の感受性は低下していた.
【考察】C. cutaneumはトリコスポロン科に属する担子菌で,以前はTrichosporon cutaneumに分類されていたが,2015年に現在のC. cutaneumに再分類された.本菌の感染例はまれであり、動物では調べた限り報告はない.今回行った薬剤感受性ではテルビナフィンに対する感受性が低下していたが,症例個体ではテルビナフィンの外用を行った後皮膚症状は完治しており,テルビナフィンが奏功した可能性もある.この理由としては、外用で抗真菌薬を使用すると病変部での濃度が高くなるため、感受性が低くても用量依存的に奏功したことが考えられた.本症例でC. cutaneum感染の発症に至った背景には,咬傷による皮膚バリアの破綻,低用量とはいえプレドニゾロン投与による免疫抑制の影響が複合的に作用した可能性が否定できない.


スナガニのメガロパ期までの育成記録

2024年 JAZA 第69回水族館技術者研究会

展示課 原田彩知子

 スナガニ Ocypode stimpsoni はスナガニ科スナガニ属に分類され,北海道南部以南の砂浜に分布する.本種を含め,スナガニ属ではゾエアからメガロパに至る育成記録は過去数件のみであり,今回,メガロパまでの育成に成功したため報告する.2024年7月21日に新潟市関屋浜で抱卵メスを採集し,海水で湿った海砂を約13 cm敷いたガラス製水槽(W600 × D295 × H360 mm)に収容した.同水槽には放仔用に海水をため通気したプラスチック製容器(W270 × D200 × H85 mm)を設置した.7月31日に放出されたゾエアを発見し,Kreisel水槽(φ333 mm × D100 mm,約8 L)へ収容した.水温は25.0-26.8℃,幼生が滞留しない程度に通気した.毎日1/3量換水し,16日齢までは5,6日に1回,死亡個体が目立ち始めた19日齢以降は2,3日に1回全換水を行った.ゾエア1期にはシオミズツボワムシ,2期からアルテミアノープリウス幼生,4期から冷凍コペポーダや活アルテミア,5期からビタクリンアダルトブラインを給餌した.Kreisel水槽での育成期間中は終始スーパー生クロレラV12を与えた.ゾエア2期は4日齢,3期:8日齢,4期:12日齢,5期:17日齢より現れ,頭胸甲長は1期:0.58 ± 0.01 mm(mean ± SD,n = 49),2期:0.84 ± 0.04 mm(n = 13),3期:1.13 ± 0.06 mm(n = 18),4期:1.80 ± 0.09 mm(n = 10),5期:2.66 ± 0.21 mm(n = 4)だった.23日齢より頭胸甲長3.58 ± 0.16 mm(n = 3)の大型ゾエアが,26日齢よりメガロパ:甲長3.94 ± 0.31 mm,甲幅3.48 ± 0.17 mm(n = 7)が現れた.稚ガニまで育成した知見はなく,31日齢よりメガロパを上陸用水槽に試験的に移動させたが,稚ガニに変態することなく45日齢までに全個体が死滅した.今後の課題は,共喰いを抑制できる飼育密度の最適化,水質が維持できる冷凍餌の給餌量調整等の対策,上陸できる環境やタイミングの把握が挙げられる.


コシノハゼの保全活動

2024年 JAZA 第69回水族館技術者研究会

田村広野,清水哉多(新潟市水族館)
千葉悟(水産研究・教育機構)
渋川浩一(ふじのくに地球環境史ミュージアム)
八柳哲(北海道大学農学院)
荒木仁志(北海道大学大学院農学研究院)
富森祐輔(新潟県長岡地域振興局)
鈴木悠理(国土交通省木津川上流河川事務所)

 コシノハゼGymnogobius nakamuraeはハゼ科ウキゴリ属の淡水魚で新潟県と山形県に分布し,ごく少数の溜池などで生息が確認されている.新潟市水族館は,2019年から環境省より国内希少野生動植物種捕獲等の許可を得て,新潟県内での生息調査,飼育による生態調査,教育普及などの保全活動を実施している.2021年度に環境省の生物多様性保全推進支援事業の国内希少野生動植物種生息域外保全に採択され,3年間,事業名「新潟県産コシノハゼ生息域外保全」として実施した.①生息調査:2019年に新潟県下越地方で3箇所,2021年に同地方で1箇所,2023年に中越地方で2箇所,新たに生息を確認した.2022年には環境DNA調査を実施した.②飼育による生態調査:2019年,昼間は底砂に潜り込む個体が多く夜間に遊泳する個体が増えるなど,夜間に活発になる生態を明らかにした.2021年10月に野生から導入した30個体を複数の水槽を用いて飼育し,屋外,屋内,水槽の大小,収容数,性比など繁殖に適した環境を調査した.屋内の窓際に設置したアクリル製90 ㎝水槽(水量150 L,中和水道水かけ流し,底砂有り,自然日長)で6個体(雌雄不明)を飼育していた.2022年5月1日に婚姻色(本種は雌のみに発現)を発現した雌1個体と雄1個体を,屋内のアクリル製60 cm水槽(水量56 L,中和水道水かけ流し,水温15.7 ℃,無底砂,LED照明)に収容したところ,5月7日に産卵があった(水温17.5 ℃).卵は基部に付着糸叢のある長茄子型の沈性付着卵で,長径4.56 ± 0.23 mm,短径1.50 ± 0.05 mm(n = 7),卵数85粒,うち基質に付着し垂下していたのは6粒であった.雄親魚によるファンニングなど卵保護行動があったが,卵は発生しなかった.③教育普及:通年展示をはじめ,様々なメディアを活用するとともに,2023年度には研究者を招き講演会を開催した.④まとめ:今後も本種の保全活動を継続し,産卵例を基に飼育環境を整え繁殖を成功させたい.


小型サンショウウオで発生したMycobacterium montefiorenseによる非結核性抗酸菌症

2024年 第34回日本動物園水族館両生類爬虫類会議

岩尾一,原田彩知子(新潟市水族館)
小峰壮史,伊原兵吾,猪鼻真理,清水茜,寺澤紬,宮崎綾佳,倉田修,和田新平(日本獣医生命科学大学獣医学科)
吉田光範,星野仁彦,深野華子(国立感染症研究所ハンセン病研究センター)
Jennifer Caroline Kwok(ペンシルバニア大学獣医学科)
Saralee Srivorakul(チェンマイ大学獣医学科)

 新潟市水族館で飼育しているハクバサンショウウオ Hynobius hidamontanus,クロサンショウウオ H.nigrescens,トウホクサンショウウオ H. lichenatusで,2010年頃より抗酸菌症の発症が連続した.主症状は皮膚潰瘍,突然死で,死亡個体のほとんどで重度の肝膿瘍がみられた.当初,抗酸菌培養は全て陰性だったため,診断は,病変部の押印標本の抗酸菌染色による菌体検出のみで行っていた.後日,冷凍サンプルによるPCR,培養条件の再検討により,起因菌はMycobacterium montefiorenseと同定された.M. montefiorenseは米国の水族館の皮膚病のウツボから発見,記載された非結核性抗酸菌であり,本事例はウツボ以降,二例目の動物での病原性を示す事例となった.2012年に発症が続いていた展示個体を全淘汰した結果,発症は一旦収まったが,その後,バックヤード飼育個体での発症が再発した.発症個体および同居個体の摘発淘汰,使用器具の使い分け・消毒,作業動線の見直し等の対策の実施後,小型サンショウウオ類での抗酸菌症は2020年以降発生していない.2014年,2018年の死亡個体由来の菌株を材料にした遺伝子解析結果からは,今回の小型サンショウウオの集団発生は同一の菌株によることが示唆された.M. montefiorenseは他の非結核性抗酸菌と同様に環境中に広く分布するが,飼育に使用していた水,床材等からの検出はなかった.そのため,感染個体の病変との直接接触,感染個体の排泄物で汚染された床材等を介して,感染が定着,拡大したものと憶測している.
 変温動物の非結核性抗酸菌症は,同種および近縁種間で容易に伝染し,通常の細菌検査では見逃されやすいため,発覚時点ですでに被害が広まっていることが多い.両生類の抗酸菌症の被害拡大の予防のためには,日常的な抗酸菌症を想定した検査,サンプル保存,防疫対策に努めるべきである.


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