シナイモツゴの系統保存について

2013年 東京大学大気海洋研究所共同利用研究集会 水族館との共同研究。その現状と、将来展望に期待を込めて

展示課 石川訓子
新潟大学理学部 坂井雅人,酒泉 満

シナイモツゴは、かつて関東から東北地方に広く分布していた種であるが、現在では東北6県および新潟県と長野県でのみ確認されている希少淡水魚(絶滅危惧ⅠA:環境省)である。1995年よりJAZAの種保存事業繁殖対象種に選定され、現在6園館にて保存活動を行っている。新潟市水族館では選定時より種別計画管理者を引き受け、本種の保存に努めてきた。

近年多くの種において遺伝的系統が調査され、系統を重視した保存活動が展開されるようになっている。しかし本種においては、一部の地域間での調査報告があるのみで、生息地全体にわたる系統は調べられていなかった。そこで新潟大学に協力を得て、本種の保全に資するために遺伝的系統解析を行った。新潟大学の協力を依頼した理由は、1.メダカの遺伝的系統分析の実績があり専門知識と設備がそろっている 2.水族館から近い 3.以前より展示や研究での交流があった の3点である。

まず本研究を行うにあたり当館保存個体を使用し予備実験を行った。予備実験では、調査領域(シトクロームB、16sリボソームRNA)の決定とプライマーの設計、実験方法やサンプリング方法等を試行した。実際にいくつかの系統があることが予想される結果が得られたため、それを踏まえ方針を決定した。同時にJAZAの野生動物保護募金による助成事業に申請、採択され研究費を得た。これにより一年間で研究を完了し活動の報告と公表の義務が生じた。
実際の役割分担は、検体の入手は水族館、実験方法の決定と設備提供・薬品の調合および実験機材の設定は大学、実験と塩基配列の決定は両者、分子系統解析は大学が担当した。なお打ち合わせはすべて大学で行った。助成研究費は、検体保存用のサンプル瓶とエタノール、大学で使用する試薬類に利用した。その他の支出として、検体輸送料やサンプリングにかかる費用は水族館、チップやチューブ等の消耗品や使用量が少ない薬品類は大学側が負担した。
水族館が受ける共同研究のメリットは、研究のデザインについての助言や実験の分担、設備の利用、解析作業など多大で、専門性の高い遺伝的系統解析が行えることであった。一方で、実働の共同研究者が大学院生であったため、課程修了により研究室から離れてしまい、その後の連絡が難しくなった。また、今後追加調査の必要が生じた際の引き継ぎ等が問題となると考えられる。大学側のメリットは、学生が社会と研究の接点を実感しやすい、研究成果の公開と社会への還元の良い機会となることなどがあげられる。また、1年間という期限のため、実験を進める中で必要となった追加実験の時間をつくることが困難であるという問題にも遭遇した。

本研究の結果、シナイモツゴは太平洋側(A)と日本海側(B)の2系統から成り、さらにBは5つの亜系統(B1~B5)に分けられることが判明した。現在保存している個体群は太平洋側の系統(A)と日本海側の2系統(B3,B5)に含まれ偏りがあった。今後は保存産地を見直すとともに新規の保存園館を募り、系統を重視した保存活動が展開できるよう努めたい。