ハンドウイルカとカマイルカにおける単回経口投与時の血中アモキシシリン濃度推移

2023年 第29回日本野生動物医学会大会

久保田隆廣,廣瀬侑莉,元井優太朗(新潟薬科大学薬学部)
岩尾一(新潟市水族館)

【背景・目的】
 ペニシリン系抗菌薬であるアモキシシリン (AMPC) は, ブドウ球菌属やレンサ球菌属などに適応があり, 殺菌的に作用する. その薬力学的パラメータは最小発育阻止濃度 (minimum inhibitory concentration; MIC) を超える持続時間をあらわす time above MIC (TAM) であり, 起炎菌に対して MIC 以上で有効性を示す. イルカにおける AMPC 推奨投与量は確立されておらず, その治療効果は投与量に影響されやすいため, 適切な投与設計が望まれる.
本研究では, ハンドウイルカとカマイルカ由来の血清を用いた AMPC 定量分析法を確立し, それぞれの血中薬物動態を解析することを目的とした.
【検体と実験方法】
 新潟市水族館マリンピア日本海 (新潟市) にて飼育されている 2 頭のハンドウイルカTursiops truncatusと 3 頭のカマイルカLagenorhynchus obliquidens, 計 5 頭から採血した薬物動態解析用の 16 検体を用いた. すなわち, AMPC を投与した 0.25, 0.3, 0.33, 0.5, 1.0, 2.0, 4.0 および 6.0 時間後に採血し, 血液を速やかにプレーン採血管に分注後, 冷凍下(-30℃)にて保管した.
高速液体クロマトグラフィー用分析カラム InertSustain AQ-C18 (5 µm, ϕ4.6 × 150 mm) を使用し, 測定波長 228 nm, 流速 1.0 mL/min およびリン酸緩衝液系の移動相を用いて分析をおこなった.
【結果と考察】
 ハンドウイルカの個体 A に対する AMPC 投与量は 10 mg/kg, それ以外の個体 C, ならびにカマイルカ I, T および M に対しては倍量 20 mg/kg にて実施した. AMPC 血中濃度の最低値は, A に対する投与後 0.3 時間値 0.5 mg/L, 最高値は T の投与 1 時間後の 18.2 mg/L であった. ハンドウイルカにおいては, 投与後 2 時間で最高血中濃度到達時間(Tmax)に達し, 半減期(t1/2)は 1.3 時間であることを確認した. なお, A の倍量投与にあたる C の最高血中濃度(Cmax)は 2 倍高い値を示した. 一方, カマイルカの Tmax は投与後 1 時間であり, Cmax は C のそれとほぼ同程度であった. また, T の血中濃度推移から求めた t1/2 は, 1.6 時間とハンドウイルカのそれとほぼ同じであった.
ヒト健常成人にサワシリン® カプセル 250 mg(力価)を空腹時単回投与した際, その薬物動態パラメータは Tmax が 2 時間, t1/2 はおおよそ 1 時間と報告されおり, 上述したイルカにおける AMPC 薬物動態パラメータと同程度であることが明らかとなった. 今後は, 血中 AMPC 動態パラメータに基づく個体差や種差の検証に取り組みたい.


     
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