2023年 第29回日本野生動物医学会大会
獣医師 岩尾一
【背景と目的】
薬物代謝能を把握するためは,cytochrome P450(CYP)の活性を知ることが重要である.抗菌薬・抗真菌薬など数多くの薬剤は,おもに肝臓や小腸における CYP による代謝活性を考慮して投与される.ヒトにおける CYP の代表例は CYP3A4 をはじめ, 2C9/19,2D6 および 1A2 などが挙げられ,その割合は多い順に 3A4 が約 30%,2C9/19 が約 20%,1A2 が約 13% および 2D6 が約 1% と報告されている.一方,ヒト以外の動物ではこれらの構成比に関する情報が限られている.
本研究では,ヒト CYP に対する定性分析法がペンギンの肝組織にも応用できるかについて検討をおこない,フンボルトペンギン由来の肝組織を用いて CYP 構成比を解析することを目的とした.
【検体と実験方法】
葛西臨海水族館(東京都)とマリンピア日本海(新潟県)から供与されたフンボルトペンギンSpheniscus humboldti死亡個体 6 羽の肝組織から調製した検体を対象とした.すなわち,各肝細胞 1 g に対して Microsome isolation kit(アブカム株式会社)を用いてホモジネートをおこない,計 6 検体の肝ミクロソームを得た.また,Bradford 法を用いて各検体の総タンパク量を定量した.
各検体で 7.5% SDS ポリアクリルアミド電気泳動をおこなったのち,ヒト CYP に対する特異抗体を用いて western blotting を実施した.すなわち,ウサギ由来抗ヒト CYP ポリクローナル抗体を用いて一次反応を,次にペルオキシターゼ標識抗ウサギ抗体を用いて二次反応をおこない,3, 3´, 5, 5´-tetramethylbenzidine により検出した.
【結果と考察】
対照検体として用いたヒト CYP3A4 は,54 kDa 付近に陽性反応を示した.フンボルトペンギン由来の検体では 6 検体中 4 検体に 54 kDa と 50 kDa に陽性反応を,ほかの 2 検体については 50 kDa のみ陽性を示した.また,ヒト CYP2C9 では 50 kDa に反応を示したのに対して,検体ではより分子量の大きい 64 kDa に陽性反応を示した.しかし,ヒト CYP2D6 と 1A2 においては陰性であった.これらのことから,フンボルトペンギンがヒト CYP3A4 や 2C9 と同様の免疫反応を示す薬物代謝酵素を持つことが明らかとなり,さらには, 個体ごとに保有する CYP 分子量が異なる可能性が示唆された.
今後は同検体の定量分析をおこない,CYP 構成比の検証をおこなうとともに,別種やほかの動物に対して同様の解析を取り組みたい.