水産研究機関との連携によるアカムツ研究への取り組み

2023年 第10回水族館シンポジウム

新田誠(新潟市水族館)
八木佑太(水産研究・教育機構水産資源研究所)
飯田直樹,福西悠一(富山県農林水産総合技術センター水産研究所)

 アカムツは、水深100~300mに生息するホタルジャコ科アカムツ属の深海性の魚である。新潟県では県推進ブランド、新潟市では全国に誇る銘産品に指定されるなど、新潟で一押しの魚である。新潟市水族館では、2008年から本種の展示を目的とした採集活動を行い、2010年に天然個体による人工授精で世界初となる受精卵の入手に成功した。その後育成に取り組み、2012年までの3年間で20日齢までの育成に至ったが、稚魚期までの育成条件の解明には至らなかった。2013年には、本種の初期生態の調査を行っていた水産研究・教育機構水産資源研究所(以下、資源研)、親魚育成に取り組んでいた富山県農林水産総合技術センター水産研究所(以下、富山水研)と連携して育成条件の解明に取り組むこととなり、2013年に稚魚223個体の育成に成功、2014年に若魚の常設展示を実現させた。2017年からは水産庁委託事業へ参画することとなり、現在まで「アカムツ親魚養成技術の開発」を担当している。本事業での当館の役割は、魚の長期飼育技術および深海魚を飼育できる設備を保有している利点を生かし、長期飼育による本種の繁殖生態を解明することである。
アカムツを稚魚期まで育成できた要因は、水産研究機関と連携したことが挙げられる。一つ目は、資源研が保有していた天然海域での仔稚魚の分布水温のデータを解析する機会を得られたことにある。これを参考に、繁殖期の産卵海域での鉛直的な水温を自記式のデータロガー(水温塩分水深計)で測定し、得られたデータを育成条件に反映させることができた。二つ目は、種苗生産技術に長けている富山水研の研究者と迅速に情報交換ができる環境にあったことである。育成途中に仔魚に現れた異常行動に関して、育成環境の改善方法を共有し、改善に即座に対応できたことが挙げられる。
2023年度の水産庁委託事業「さけます等栽培対象資源対策委託事業新規栽培対象種技術開発(魚類甲殻類)」へ参画している水産研究機関は8機関で、親魚養成の対象となっている魚種はアカムツ、キンメダイ、アカアマダイ、シロアマダイの4種である。採卵研究を目的とした天然親魚の生体確保が難しい魚種に関しては、水族館の持つノウハウを助言するなど,協力体制を構築して研究を実施している。水族館職員には展示飼育用務が課せられており、その中で研究活動の時間を確保することは容易ではないが、水産研究機関の持つ生産技術、天然海域で得られるデータ(水温、塩分、生体の分布状況等)の共有ができるなど、連携により得られる利点は多い。水族館関係者には水産研究機関と連携した研究への取り組みを勧めたい。


     
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