2022年 第67回水族館技術者研究会
展示課 原田彩知子
シロウ Occella kuronumai は富山湾以北の日本海及び津軽海峡沿岸の水深6-300 mの砂泥底に生息するトクビレ科魚類である.トクビレ科魚類は交尾を行い,卵は孵化まで数か月から約1年を要する.本種の飼育知見及び育成記録は乏しいが,2015年に受精卵が得られ,育成に成功した.親個体は2015年3月29日に新潟市関屋浜沖で採集された.同年4月12日に水槽内にて卵塊を確認したため(以降,数度にわたって産卵),ポリプロピレン製容器(W270 × D200 × H85 mm,底部にプランクトンネットを貼付)を浮かせ,収容した.約9か月後の2016年1月15日から孵化が始まり,仔魚は通気したポリカーボネート製30 L円形水槽へ移動して常温で止水飼育し,1月16日以降に孵化した仔魚は500 L円形水槽(濾過循環式.設定水温12.0 ℃,オーバーフローにスポンジフィルターを設置)に収容した.30 L円形水槽は毎日1/3量換水を行い,500 L円形水槽はスポンジフィルターを更新した.孵化仔魚の餌料は栄養強化したアルテミア幼生とクリーンコペポーダを用いた.孵化後は水面付近を泳いでいたが,42日齢頃から着底し始めた.この頃には活フクロアミと,クリーンブラインシュリンプ,クリーンホワイトシュリンプを与えた.84日齢でクリーンブラインシュリンプを摂餌しているのを確認し,以降はサイズに合わせて配合飼料,オキアミ類,マアジミンチを与えた.孵化後0日齢の仔魚の全長は8.0 mm,14日齢8.4 mm,21日齢9.4 mm,30日齢13.7 mm,46日齢17.1 mmと成長した(n = 1).2017年7月から常設水槽に随時展示し,2018年3月29日に尾部を左右に振る普段見られない行動を確認,同年5月14日に産卵したため,水温11.0-12.0 ℃の飼育下では,2歳で成熟することが分かった.なお,本例について,2021年度初繁殖認定を受けた.