2022年 第67回水族館技術者研究会
展示課 田村広野,梅田侑渚
遡河回遊魚のカワヤツメの幼生は河川の砂泥中で生活するため,育成や観察が困難である.本種の幼生期の知見を得るため,人工授精で得られた幼生を異なる環境下で育成した.親魚は展示水槽(水量5.4m3,水温15.0℃)で飼育していた,阿賀野川産の雌1個体(全長316mm)と雄2個体(全長369mm,352mm)である.2020年5月25日に産卵行動が発現したため,取り出して麻酔下で搾出法により採卵と採精を実施し,乾導法で授精させた.卵数は約18,000粒,受精率は約80%,受精卵は球形で卵径1.06±0.01mm(n=5)であった.アクリル製水槽(水量54L,水温17.0℃)に収容後,9日目に孵化した.孵化幼生は全長3.96±0.15mm(n=3)であった.6日齢から幼生の水槽底面への潜行が観察されたため,①井水を水源とした屋外ビオトープ(水量120㎥,無温調)の砂泥部分,②砂泥を7cm敷いた濾過循環水槽(水量180L,水温17.0℃),③砂泥を7cm敷いた中和水道水の掛け流し水槽(水量180L,冷却17.0℃設定で加温なし)の実験区に,それぞれ約3,000個体を収容した.①は無給餌,②③はドライイースト,小麦粉,メダカ用配合飼料を混合して中2日で与えた.103日齢で確認すると,①②の生残数は0で,死因は,①は餌不足と夏季の高水温,②は循環による餌料の流出による餌不足と推察された.③の生残数は約200個体で全長13.76±1.36mm(n=3)であった.204日齢の生残数は約80個体で全長26.70±2.54mm(n=3),710日齢の生残数は6個体で全長64.16±12.86mm(n=6),期間中は水温16.2±1.7℃であった.713日齢から,砂泥を1-2mm敷いた中和水道水の掛け流しのアクリル製水槽(水量45L,水温17.7℃)で展示した.最も生存した個体は742日齢で,幼生を水温11-18℃で育成し,餌料の流出を防ぐ環境にすることにより,2年以上の育成が可能であった.繁殖個体を用いた早期からの長期間の生態展示が今後の目標である.