調査・研究

研究発表

1 / 2 1 2

ため池と河川との連結性が水生動物相に与える影響 −新潟県上越市を事例として−

2026年 第73回日本生態学会大会

清水哉多(新潟市水族館)
大関佑弥,小林幸平,指村奈穂子(水辺カオス)

新潟県上越市は、日本有数の地すべり地として知られ、県内でも特に水生生物の多様性が高い地域である。地すべり地は狭い範囲内にため池や河川など多様な水辺環境を有するが、それら水域間の連結性が水生生物相に及ぼす影響は十分に検討されていない。本研究では、地すべり地形が卓越する同市を対象に、ため池と周辺河川の連結性が水生動物相に与える影響を明らかにすることを目的とした。
 調査は、上越市内の地すべり地を中心に、ため池34か所および最寄り河川18箇所を選定して実施した。生物調査は2025年8月から10月に行い、各地点においてタモ網による10分間採集を実施し、出現種と個体数を記録した。環境要因として水温、pH、EC、抽水植物の被度を測定した。群集の類似性の評価にはSorensen指数を用いた。また、地形的要因の解析にはQGISを用い、各ため池と対象河川間の標高差、直線距離および流下距離を算出した。
 その結果、ため池では118種、河川では計48種の生物が確認され、両水域の共通種はトウヨシノボリやスジエビなど13種であった。Sorensen指数と各ため池―河川間の直線距離、流下距離および標高差との関係を解析したところ、ため池と河川の標高差が大きい地点ほど指数が低く、共通種が少ない傾向がみられた。また、地すべり地にあるため池ほど河川との標高差が大きく直線距離が短く、動物相の類似性は低かった。これは、地すべり地特有の急斜面や複雑な起伏が大きな標高差を生み、生物にとっての障壁となっているためと考えられる。
 一方で、この地形的な障壁による連結性の欠如は、河川生息種のため池への侵入を防ぎ、それぞれのため池における環境条件をより反映した生物群集の成立を促進していると推察される。以上の結果から、地すべり地に特有の地形的不均一性とそれに伴う水域の孤立化が、狭い範囲に多様な水辺環境を創出し、結果として地域全体の生物多様性の向上に重要な役割を担っていることが示唆された。


新潟県柏崎市におけるウミウシ類の出現状況とその年変動

2025年 日本ウミウシ研究会第2回情報交換会

展示課 清水哉多,原田彩知子,石岡勇剛,大越智香

本研究では、新潟県柏崎市におけるウミウシ類の出現状況の把握・過去の記録との比較および環境変化との関連を検討することを目的とし、2021~2025年の5年間にわたり調査を行った。
調査は柏崎市石地のアマモ場を有する海岸において、1~4か月に1回の頻度で実施した(計29回)。調査は基本2名、タモ網を用いて約1時間採集を行った。また出現種の把握のため、ウミウシの種・個体数を記録したほか、環境要因との関係を考察するために水質やアマモ場の被度も記録した。個体数の年変動を評価するため解析はCPUEを用い、出現時期などは過去の記録(臼杵, 1969; 1970)と比較した。
調査期間中に確認されたウミウシ類は、頭楯目1種、嚢舌目2種、裸鰓目6種、アメフラシ目8種の計17種であった。多くの種は出現頻度が低かったものの、アメフラシは通年確認された。一方、アオウミウシは5~7月の暖候期にのみ出現し、通年確認されている過去の記録とは異なった。また、年ごとのCPUEに大きな変化は見られなかったものの、ウミナメクジは減少傾向を示し、2025年には確認されなかった。また、ウミナメクジの生息基質であるアマモ場も2021年に比べると衰退傾向にあり、調査期間を通じて夏季の顕著な高水温が確認された。
アオウミウシの出現時期は過去の記録と異なっていたが、これは調査地点や水深の差異に起因する可能性が高く、ウミナメクジの減少については、生息基質であるアマモ場が海水温上昇に伴い衰退したことが影響した可能性が高いと考えられる。
本調査地では過去に新潟県で記録された種組成と大きな変化は確認されなかったが、海水温上昇が生息環境(アマモ場)の衰退を通じてウミウシ類に間接的な影響を及ぼしている可能性が示唆された。


カマイルカの出産前後の行動観察におけるiPadの活用

2025年 JAZA 第51回海獣技術者研究会

展示課 小林泉美,小川みはる,松本輝代,渡邉拓也,石田茉帆,石川訓子

 新潟市水族館マリンピア日本海では,2019年から4年連続でカマイルカAethalodelphis obliquidensの出産があった.この4例全てにおいて,出産前と出産後6-9ヵ月にわたって母子の行動観察を行った.最初の3例では紙の観察シートを使用して記録したが,シートの保管スペースが必要,デジタルデータに変換しないと行動変化の可視化が難しい,集計の際の入力作業に膨大な時間がかかるといった問題があった.これらの問題解決を目的に,2022年の出産の際は,紙の観察シートに加えてiPadのカウンターアプリを導入した.任意のカウンターを作成でき,カウンターを押した回数を記録できるアプリは多くあったが,カウンターに自由に数字を入力できる点やデータをすぐにExcelに変換できる点などから,「カウンター‐統計学、習慣追跡」というアプリを選定した.導入の結果,記録用紙の大幅な削減と,記録がすぐにグラフ化されることで行動変化の可視化が即座に可能となった.さらに,iPad内に履歴が全て保存されるため,入力作業不要で記録をデータとして保存可能となった.それに加えて,カウントした履歴全てをExcelデータとして扱えるため,容易に過去のデータとの比較をすることができた.しかし,カウンターの位置が意図せず変更されるなどアプリ内での問題や,Excelに変換する際に文字化けが起こること,24時間観察の場合,複数のタブレットが必要で,同期に手間がかかることなどの問題も見られた.カウンターアプリの導入はデータ管理の面では効果的だったといえる.今後は行動観察の記録手段として,iPadならびに紙の観察シート双方のメリットを活かした最適な運用方法を検討していきたい.


フンボルトペンギン Spheniscus humboldti における慢性消化管クロストリジウム症からの鉄欠乏性貧血

2025年 第31回日本野生動物医学会大会

展示課 岩尾一

[序]鉄欠乏性貧血の診断はヘマトクリット(Ht),ヘモグロビン,赤血球恒数,血清鉄値(Fe),総鉄結合能(TIBC),鉄飽和度(TSAT),フェリチン値の総合的な評価によって行われる.鳥類では赤血球が有核であるため,ヘモグロビンや赤血球恒数の機械での正確な測定は困難であり,フェリチン測定も不可能であるため,診断に制約がある.これらの制約により,感染症などの炎症性疾患に続発する慢性疾患の貧血(ACD)との鑑別も困難となることがある.また鉄欠乏性貧血の鉄剤治療では,貯蔵鉄値の指標であるフェリチン値が治療期間の指標として役立つが,鳥類ではこの指標が利用できない.本症例では,フンボルトペンギンにおいてHtとTSATを基準とすることで,鉄欠乏性貧血の診断と治療期間の決定を効果的に行った.
[症例] 2017年11月10日(1病日)より,新潟市水族館のフンボルトペンギン68羽の飼育施設の床に個体不明の血便の出現が続いていた.血便のグラム染色ではClostridum perfringens様あるいは有芽胞性のC. spp.様のグラム陽性大型桿菌,赤血球,偽好酸球,栓球,フィブリンの出現が継続し,重度の消化管クロストリジウム症を発症していると診断した. 第48病日に個体(オス,6歳.BCS 3/5)を特定し,メトロニダゾール投与(62.5 mg, PO, sid, 13日間)を行った結果,症状は回復した.49病日の採血で,血液塗抹での赤血球の大小不同, Htの低下(24%)があったため,49病日から硫酸鉄投与(25 mg, PO, sid)も開始した.72病日と103病日の血液検査時のHtの回復傾向(37%, 40%),103病日の Feの低値(14 μg/dl), TIBCの上昇(192 μg/dl), TSATの低下(7.3%)に基づいて,慢性の消化管クロストリジウム感染症による持続出血からの鉄欠乏性貧血と診断した.治療目標は健常個体の測定値を参考に,Ht 約50%およびTSAT 30%以上とした.それぞれの目標値に到達するのは,第103, 138,160病日のHt,  TSATの実測値から求めた回帰式により,190病日ごろと予想された.そのため,硫酸鉄投与はその時期まで継続することにした.実際の硫酸鉄投与の終了は,198病日の採血でHt, TSATがそれぞれ52%,34.5%と目標値に達していることを確認してから行った.
[考察] 鳥類における鉄欠乏性貧血の診断は,ヒトや犬猫と比較して利用可能な検査項目が限られるため,課題が多く,診断や治療期間の決定に関して具体的な指標が示されていない症例報告も多い.特に,ACDとの鑑別は,両者が類似した血液学的所見を示すことがあり,鑑別が困難な場合があるが,それを考慮した記述もまれである.ACDでは炎症性サイトカインの作用により鉄の利用が阻害されるため,血清鉄は低下するが,貯蔵鉄は増加あるいは正常であることが多い.しかし,鳥類ではフェリチンが測定できないため,貯蔵鉄の状態を直接評価することができない.本症例では,原疾患である消化管クロストリジウム症の治療に加え,HtとTSATを貯蔵鉄の代理指標として鉄剤投与を行い,貧血の改善と鉄状態の回復を確認した.この方法は、長期的な鉄剤投与の必要性を判断し,過剰な鉄負荷のリスクを低減する上でも有効と考えられる.


新潟県の地すべり地を中心としたため池の生物相および魚類相について

2025年 ゴリ研究会

清水哉多(新潟市水族館)
大関佑弥,指村奈穂子,小林幸平(水辺カオス)

本研究では,上越市の地すべり地にあるため池50箇所を対象に,水生生物相を調査し,環境条件との関係を解析することで,地すべり地が水生生物相に与える影響について考察した。調査は2024年5—10月にかけて実施した。タモ網やカゴ網を用いて水生生物相を把握するとともに,環境要因として水温,溶存酸素量,pH,水面の浮葉植物と抽水植物の被度も測定した。また,地すべりの影響を評価するため,調査地点から半径1km以内の地すべり移動体面積を算出した。
その結果,43科90種の水生生物を確認し,種数が多い分類群から順に昆虫類58種,両生類10種,貝類9種,魚類9種であった。その結果、地すべり移動体面積と在来種数とは正の相関が,外来種数とは負の相関がみられた。分類群に注目すると,特に昆虫類では種数との間に正の相関,魚類では負の相関がみられた。このことから,地すべり地は,人が利用する以前から既に湿地環境が形成されていること,アクセスの悪さにより外来種が持ち込まれる頻度が低いことなどの要因により,高い生物多様性が維持されていると考えられた。一方で魚類の種数は地すべり地で少ない傾向がみられた。地すべり地にあるため池は川をせき止めて作られたため池が少ないこと,周辺河川と直接的なつながりが少なく,河川から魚類が行き来することが困難であることなどが要因と考えられた。


新潟県で初めて採集されたサツキハゼの記録

2025年 のと海洋ふれあいセンター研究報告 第30号

展示課 清水哉多,渡邉拓也,石岡勇剛,大越智香

サツキハゼ Parioglossus dotui Tomiyama, 1958 はスズキ目クロユリハゼ科サツキハゼ属の 1 種である。本種の分布は日本海側では石川県以西(中坊, 2013) 、太平洋側では茨城県以南まで記録されている(棟方ら, 2022) 。また、日本国内における分布南限は沖縄県であり(中坊, 2013) 、河口や沿岸域に生息する暖水性の魚類である。日本海側における本種の分布の北限は石川県であり、新潟県での採集記録は今までにないが、2024 年 6 月 11–12日に新潟県柏崎市の海岸で本種を計 31 個体採集した。今回採集した個体は新潟県での初記録となるため、標本に基づきここに報告する。


外来ヌマエビ駆除によるヌカエビの個体数変化

2025年 第72回日本生態学会大会

展示課 清水哉多

近年、川や池などで外来ヌマエビNeocaridina sp.が多く見られるが、実際に外来ヌマエビを駆除することで在来種にどのような影響があるか調査した研究はほとんどない。そこで本研究では閉鎖水域であるビオトープにおいて外来ヌマエビの駆除を行うことで在来種であるヌカエビParatya improvisaにどのような影響があるか調査を行った。
調査は新潟市水族館の外来ヌマエビとヌカエビが混在しているビオトープを用いた。調査・駆除はビオトープ(総面積175.3㎡)を5地点にわけて行った。期間は6~11月、頻度は概ね2週間に1回、1地点当たり7分間、タモ網を用い採集を行った(計10回)。採集した外来ヌマエビは冷凍し、後日、体長と個体数を測定・計数した。ヌカエビは計測・計数後元の地点に放流した。
計10回の調査を通してヌカエビを8378個体、外来ヌマエビを14273個体採集した。6月上旬に行った初調査ではそれぞれ全地点の総個体数割合はヌカエビが12%、外来ヌマエビが88%であったが、10回目の最終調査では両種共に50%ずつとなり、ヌカエビの割合増加が見られた。 また、全地点の総個体数で見ると初調査でヌカエビが171個体、最終調査では1231個体と7.2倍に増加し、外来ヌマエビは初調査が1271個体、10回目では1228個体と駆除による大きな減少は見られなかった。両種の総個体数は9~10月にかけてピークを迎え、その後緩やかに減少した。
最終的にヌカエビの個体数は増加し、外来ヌマエビの個体数は一定程度維持された。夏の繁殖期には、新規個体の参入による急増を抑止することはできなかったが、繁殖期以外であれば駆除によって外来ヌマエビの増加を一定程度抑えることができた。また、駆除により相対的にヌカエビの個体数が増加する可能性があることが、今回の調査結果から示唆された。


新潟にある水族館が実施する「田んぼ体験プログラム」での学びについて

2024年 日本環境教育学会第35回年次大会

副館長 大和淳

1.はじめに
「新潟市水族館マリンピア日本海」は、1990年7月に開館した水族館である。2012年9月から翌年7月中旬に行われたリニューアル工事の際、屋外に「にいがたフィールド」という新潟の水辺をモデルにしたビオトープを造成した。にいがたフィールドには「平野部の砂丘湖」「里山のため池」「小川」「湧水」という“自然環境”と共に“人工環境”である「田んぼ」を造成した。
本発表は、“米どころ新潟”の市民を対象に2013年から毎年実施している「田んぼ体験プログラム」で、発表者が主担当であった2013年から2022年の10年間(2020年はCOVID-19流行で中止)について、地域に根ざした環境教育の実践例として報告する。
2.実践研究としての問題意識と目的
水族館の役割として「環境教育」があげられているが、実際は理科教育的なものが多く、環境教育の実践報告は多くない。また、対象は小学生以上の児童生徒を対象としたものが多く、未就学児や大人を対象としたものが少ない。そのため、以下を目的とする。
・毎年実施するプログラムであることから、実践例としてデータの蓄積。
・未就学児や小学校低学年の子どもとその保護者(大人)への地域に根差した環境教育プログラムとしての評価の試み。
3.プログラムの概要
公募で当選した4歳以上のプログラム参加者(10年間で88組220人)を対象に、2015年までは「田植え」「稲刈り・稲架掛け」「脱穀」の3つの体験、2016年から2022年はそこに「わら細工」を追加した4つの体験を実施。水族館らしさとして、田植えなどの際にも水を抜かず、田んぼにメダカなどの生きものが生息している状態で行った。
4.方法
田植え後と全プログラム終了後の2回、質問紙調査を実施。量的および質的な分析を行った。1回目の回収率は85.9%、2回目は71.6%であった。
5.主な結果と仮説
・田んぼに生きものがいることで感じられる生きものとの共生の意識が醸成された。
・コメ作りや食べ物の大切さを考えるきっかけとなった。
・地域の文化を体験することの大切さが認識された。
・子どもと体験することで大人にも環境教育的な学びがあるのではないか。


コシノハゼの生息地の発見と飼育

2020年3月
展示課 田村広野


コシノハゼGymnogobius nakamuraeは、新潟県と山形県に生息するハゼ科ウキゴリ属の淡水魚です。以前は、ジュズカケハゼ鳥海山周辺固有種と呼ばれていましたが、1907年に新潟県長岡市を基産地として新種記載されていたコシノハゼと同種であることが判明し、現在は、コシノハゼが標準和名に用いられています。環境省のレッドリストでは、ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高い絶滅危惧ⅠA類に評価されています。また、2019年に国内希少野生動植物種に指定され、「種の保存法」に基づき、捕獲や譲渡等が原則として禁止されています。
当館では、新潟県内の生息地の把握と生態の解明を目的に、環境省より捕獲等の許可を得て、2019年7月より調査を行っています。採集調査と採集個体のDNA解析による種判定により、新潟県下越地方の3箇所の溜池で生息を確認しました。さらに採集個体の一部を飼育することで、底砂に頻繁に潜り込む、夜間に活発になるなどの行動生態が明らかになりました。


コシノハゼ


生息する溜池




砂に潜る2個体(黒線楕円内)



夜間に活発になる


ハンドウイルカの尿性状

2009年1月
展示課    新田 誠


海洋哺乳動物の生物学的試料の採取並びに検査は,海洋という特殊な環境に進出した哺乳類の高浸透圧環境への適応進化の解明に役立ち,飼育下の動物の生理学研究や健康管理に有用です。しかし,水中生活に適応したクジラ目の場合,身体の拘束による試料の採取や病気の治療には危険が伴い,必ず必要とする試料が得られるとは限りません。新潟市水族館マリンピア日本海では,飼育下,クジラ目に,正の強化を用いたオペラント条件付けを応用し,身体的拘束をすることなく,身体検査や治療,さらには生物学的試料の採取を安全に実施するための行動形成を行っています.行動形成による生物学的試料の採取は,トレーナーと動物の双方に危険が及ぶことを極力回避でき,また,採取手続きに掛かる人手や時間が簡略化されることから,継続的な試料採取が可能となります。

本研究の対象とした尿は,非侵害的に得ることができ,比較的容易に病気の種類や程度・活動性などを知ることができます。
当館では,尿検査を飼育動物の生理値の解明および健康診断の指標とする目的で,飼育下クジラ目の尿を週1回の頻度で定期的に採取してきました。

約1年間の尿を採取し検査した結果,メスのハンドウイルカ5頭(個体C:飼育年数15年,K・Y:13年,R・A:3年)の尿性状について,若干の知見が得られました。



採尿期間は、個体C,K,Yが,2001年12月6日~2002年11月27日までの約1年間,個体R,Aは,2002年5月15日~11月27日までの約半年間であり,201検体の尿サンプルが得られました。

採尿方法は,①腹部をトレーナー側に向けてステージに上げ,自発的な排尿を待ちます。②体側に付着した海水の混入を防ぐため,生殖溝
付近の海水をタオルで拭き取ります。③生殖溝付近を観察し,排尿を視認します。④排尿後,すぐさま用意していた容器で採取します。





排尿までに要した時間は,最短で1分,最長で50分です。5~10分が最も多く,中央値は10分でした。



検査項目は,物理的検査,化学的検査,沈渣の鏡検,非電解質および電解質濃度の大きく分けて,4つの項目であり,計19項目について測定を行いました。
尿の色調は,201検体すべて淡黄色でしたが,検体ごとに若干の濃淡のあることが確認されました。



採尿量の測定には,メスシリンダーを使用し,尿比重の測定には,尿検査用の尿比重屈折計(ユリコンJE,アタゴ社)を使用しました。
物理的検査の結果,尿比重の範囲は,1.027~1.062でした。採尿量は,すべての尿の採取はできませんが,最大で160mlでした。



化学的検査の結果,pHの範囲は,5.0~7.5,ウロビリノーゲン,±~+タンパク,-~+糖-ビリルビン,-~±,潜血,-~++でした。
ウロビリノーゲン~潜血については,異常値も得られたため,個体ごとの出現率を調査した結果,タンパクと潜血に異常値の出現が比較的多く見られ,個体Cと個体Yに潜血反応が頻繁に見られました。



沈渣を鏡検した結果,赤血球と上皮が通常より多く見られた検体がありました。通常,赤血球,白血球,上皮は,400倍1視野で,1未満~2個程度見られます。個体ごとに出現した赤血球,白血球,上皮を4つの区間に区切り,出現率を調べた結果,個体Cで全体の約60%,個体Yで全体の約30%の割合で尿中の赤血球増加が見られ,5個以上が,それぞれ約10%と2%みられました。





非電解質および電解質濃度を測定した結果,尿素窒素の範囲は,844~3123㎎/dl,クレアチニンの範囲は,28.7~192.5㎎/dl,浸透圧の範囲は,844~3123 mOsm/㎏,Naの範囲は,165~620 mEq/l,Kの範囲は,32.5~166 mEq/l,Clの範囲は,205~620 mEq/l,Caの範囲は,0.3~35㎎/dl,Mgの範囲は,2.0~16.5㎎/dl,Pの範囲は,20.1~185㎎/dlでした。





尿比重,尿素窒素,クレアチニン,浸透圧,電解質濃度について,各個体間の平均値の差異を,t検定により検討し検出した結果,有意水準1%で各項目に有意な差が多く見られ,尿の比重,浸透圧,電解質濃度は,各個体によって相違していることが明らかになりました。



尚,個体RとAの関係については,Naを除き,有意な差が認められませんでした。この理由として,飼育年数,体重,餌料内容が類似していることが推測されましたが,詳しい考察には至りませんでした。今後,検体数の増加により判断できるものと思われます。
今回得られた数値と,過去の報告から得られているハンドウイルカの尿性状の,Na,K,Cl,浸透圧について比較した結果,Barnes(1954)の報告による海水の濃度,および,当館の飼育水に比べて若干濃い尿を出していることがわかりました.また,ハンドウイルカについては,Ridgway(1972)およびMalvin and Rayner(1968)の報告と同程度の濃度であるという結果が得られました。



今回得られた生理値を,飼育しているハンドウイルカの尿性状の基準値として用いることにより,腎機能や尿路の病気の発見に役立てていくことが出来ます。ただし,検定の結果で見られたように,各生理値は,個体ごとに差異があり,また,これらは,餌料内容や飼育環境により変化することも考えられます。個体ごとにデータを蓄積していくことが望ましいと思われます。
今後も,定期的な尿の採取を継続し,物理的検査,化学的検査で病気の有無を判断すると共に,必要に応じて沈渣の鏡検や,電解質濃度と血液性化学検査を併用するなどの検査を実施していきたいと考えています。


1 / 2 1 2
上部へ