調査・研究

研究会発表 抄録集

ハンドウイルカの採尿訓練概要と尿比重

2001年 第27回海獣技術者研究会

展示課 鈴木倫明、加藤治彦、野村卓之、進藤順治、○吉田直幸、松本輝代
石川訓子、新田 誠、山際紀子、長谷川 泉、長谷川直美、武者美奈絵


動物の尿は、当該個体の健康や生理状態の判断に有効な指標となる検体であるが、鯨目では、採取どころか視認すら 困難であることが多い。新潟市水族館では、条件付け技術を応用し、飼育展示下の3頭のハンドウイルカ Tursiops truncatus に対し、比較的安定的な採尿が可能になっており、尿性状について基礎的なデータを集積しつつある。訓練 の概要と尿性状の一部である尿比重について報告する。
尿は、動物を陸上に乗り上げさせて排尿を待ち、採取する。この時、動物は腹部をトレーナー側に向け横臥姿勢をとる (=サイドランディング(平野地、1999))。

採尿の為にはいくつかの行動を形成しそれらを連鎖する必要がある。条件付けを行った核となる行動は、
①動物に水中で仰臥姿勢を取らせ、体軸 をブールデッキに平行に尾鰭を保持する(=ハズバンドリー姿勢)。
②通常排尿までの時間は呼吸間隔を越える為、何度か 体を捻転させ呼吸の機会を与えながら、排尿を待つ。
③排尿を視認する。
④腹部をトレーナー側に向けサイドランディング させる。
⑤排尿の確認と採取。である。
強化子には、笛、餌、トレーナーの手による接触刺激を用いた。2001年6月12 日から7月11日にかけて、1日3回の採尿を目標とした集中的な検体採取からは以下の尿比重結果が得られた。(平均,標 準偏差,範囲,標本数)=(1.053,0.004,1.045-1.060,54), (1.039,0.004,1.031-1.050,77), (1.043,0.003,1.037-1.053,76)。


イルカのランディング行動の応用と有用性

1999年 第25回 海獣技術者研究会

展示課 鈴木倫明、加藤治彦、野村卓之、松本輝代、○平野訓子、田村広野


マリンピア日本海では、3頭のハンドウイルカ Tursiops truncatus に対して、3種類のランディング行動を形成し、飼育と 展示面で応用している。そこでこのランディング行動の応用と有用性について報告する。
基本となる行動は、1.腹部を下にステージに上がる「ランディング」、2.体側を下にステージに上がる「サイドランディング」、3. ランディング又はサイドランディングの状態でステージを滑る「グライディンク」である。これに方向性を加えた応用行動は、計 12パターンある。
ランディング及びサイドランディング行動は、現在、体表・眼球・口腔内の検査と治療、触診、身体各部の 計測、体重測定、聴診(肺、心音)、採尿、呼気検査等の健康管理に用いられており、今後、更なる項目(心拍率の測定、 超音波検診など)の追加、調査研究(ランディング時の体温変化など)が期待される。またショーにおいては、外部形態の解 説(哺乳類の特徴、進化)に用いられ、グライディンクは、観客に驚きを与えると共に体表の特徴である滑らかさを伝えるのに 有効である。


座礁したハナゴンドウの保護、治療について

1998年 第24回 海獣技術者研究会

展示課 加藤治彦、進藤順治、野村卓之、大和 淳、平野訓子、○田村広野




1998年10月6日、新潟県村上市の三面川河口南側の海岸に、1頭のハナゴンドウ(雌、体長269cm)が、生きた状態で打ち上がった。この個体は、村上市から北に位置する山北町脇川周辺で、9月27日以来、数日にわたって陸上から視認 されていて、痩削が著しいため、当館で保護を試みた個体であることが体表の模様から判明した。
ハナゴンドウは、座礁時、瀕死の状態であったため、応急処置(補液、副腎皮質ホルモン剤、抗菌剤等の投与)を施した後、 当館に輸送した。担架に乗せ水中での姿勢を保持し、24時間体制で監視、治療にあたった。身体検査、血液検査と胃 内視鏡検査を定期的に行い、補液、抗菌剤、強肝剤、総合ビタミン剤等を投与し、強制給餌でイカを与えた。
10月10日、胃出血と肺炎が診断されたため、胃粘膜保護剤、呼吸促進剤と気管支拡張剤を投与し、餌料を消化酵素 剤を混ぜた流動食に変更した。10月12日からは、長期の吊起による体表のスレや床ずれが顕著になってきたため、1時間半程、介助により遊泳させた。10月14日、肺炎による呼吸不全で死亡した。生存期間は、保護より9日間であった。


治療の様子

漂着時



新潟県産モツゴ属のアイソザイムバターン

1996年 第41回水族館技術者研究会

展示課 ○加藤治彦、玄番孝哲
日本海区水産研究所  野口昌之


【目的】
新潟県に分布するモツゴ属 Pseudorasbora 2種、モツゴ P.parva とシナイモツゴ P.pumila pumila の種間及び種内の遺伝的形質の相異を明らかにする。

【方法】
県内の10地点から採集された24個体(モツゴ:3地点、11個体/シナイモツゴ:7地点、13個体)を用い、デンプンゲル電気泳動法により筋肉中の5酵素(AAT、CAT、GPI、IDH、PGM)についてアイソザイムパターンを比較した。

【結果】
1. AAT,CAT,GPIで、モツゴとシナイモツゴの間に明瞭な差が見られた。種の識別に有効であり、交雑種の検出にも有効である可能性がある。
2. IDHとPGMでは、全ての個体のアイソザイムパターンに変異は見られず、種間、種内で共通であった。
3.モツゴGPIのアイソザイムパターンは、他県の標本の分析結果(内山、1987)と異なった。地理的変異について検討の余地がある。
4.シナイモツゴの5酵素全ての泳動パターンは同じであり、遺伝的変異は見い出せなかった。


新潟市水族館の役割としてのシナイモツゴの分布調査

1995年 第40回 水族館技術者研究会


展示課 ○加藤治彦


「絶滅のおそれのある野生生物」シナイモツゴ Pseudorasbora pumila pumila Miyadi は コイ目コイ科ヒガイ亜科モツゴ属の小型淡水魚で、「絶滅危惧種」ウシモツゴの基亜種である。 分布域は関東、東北地方とされているが、最近では新潟、山形、秋田、宮城4県での残存情報があるに過ぎない。 新潟市水族館では、1995年9月28日から10月26日にかけて、新潟県内及び隣接域における本亜種分布の現況を知るため調査を実施した。 調査は、自然保護センターとしてシフトしつつある水族館のパラダイムの中で、 「絶滅のおそれのある種の個体群とその自然生態系の保存を支援する活動」を行う 「分布域に立地する水族館の果たすべき役割の一分野」として位置付けられる。

目的:
1)野生生物の分布調査が水族館の恒常的な活動となった場合のコスト算出のための基礎データの収集。
2)シナイモツゴの分布状況の把握。

方法:
調査地では、水質測定及び捕獲器(セルビン、網素材のドウ)と手網による採集を行った。採集されたモツゴ属魚類 は双眼実体顕微鏡下で観察し、側線を標徴に、完全なものをモツゴ、不完全なものをシナイモツゴと同定した。

結果:
調査8日間で、総調査地数は43、調査費用は1回当たり約3千円であった。シナイモツゴは43調査地中9地点で採集され、 43調査地中3地点でモツゴが採集された。シナイモツゴとモツゴが同一調査地で採集されることはなかった。


自作アイカップ作製について

1993年 第19回 動物園水族館海獣飼育技術者研究会

展示課 鈴木倫明 小川忠雄 鶴巻博之 ○田原正義


プロトタイプアイカップ作製方法と材料:市販されているゴム製の吸盤をオス型とし、 石膏によるメス型をつくりシリコン(KE-1092㈱信越化学工業)を流し込んで作製した。 このプロトタイプは、ほとんどの個体に装着可能だったが、1頭だけ目の周囲の起伏が微妙に影響して装着できなかった。 オス型となる吸盤を既製品に求めたのでは、吸盤の大きさ形状などの選択肢に制約があり、 オス型自体の作製の必要性が生じた。また、メス型の素材の石膏も、くり返し使用するには脆弱すぎることが分かった。 これらの問題点を考慮し、改良型アイカップを作製することにした。
改良型アイカップ作製方法と材料:軟質樹脂性の彫刻材(クリアートN0235-654㈱新日本造形)を加工してオス型をつくり、 シリコン(KE-1092)による型どりでメス型を作製した。メス型にR-6離型剤(国際ケミカル株式会社)を塗布し、 シリコンの強度・粘度・柔軟性などを考慮し、特性の異なるタイプのシリコン(KE-1402(㈱信越化学工業)と 併用触媒(CAT-1402㈱信越化学工業)を重量比10:1の割合で混ぜたものをメス型に流し込んで作製した結果、 若干の改良は必要なものの充分実用に耐えうるアイカップができた。


佐渡周辺での冷水系生物の収集、及び水中ロボットによる海底調査について

1992年 第37回水族館技術者研究会

展示課 ○長谷川順二


当館では、1990年のオープン以来、佐渡島の両津湾に生息する冷水系生物の飼育展示を行ってきた。 両津湾の冷水系生物の収集と、これら収集生物の環境展示を充実させるため、鳥羽水族館の協力のもとで行った海底調査について報告する。
収集:10月から5月まで行われているホッコクアカエビを主体としたエビ篭漁に乗船し、これに混獲される生物をこれまでに33種2644点収集した。 収集地点での水深は、200~500mである。輸送には、ポリエチレン製タンク2器(1トン、0.3トン)を用い、水温調整には海水氷を使用し、1~1.5℃を保った。
海底調査:調査期問は、1992年6月10~13日の3日間。調査には、漁船に乗船し、水中ロボット(三井造船RTV300)とアンダーウォーターカメラ(OSPREY杜)を用いた。 調査地点での水深は、150~250mであった。
収集した生物と、海底調査で得られた映像資料を参考に、合わせて展示することにより、より効果的な環境展示が行われた。今後も、このような調査と収集をひきつづき行いたいと思う。


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