調査・研究

研究会発表 抄録集

ハンドウイルカの胴周囲長と体重との相関

2009年 第35回海獣技術者研究会

展示課 ○小林稔、鶴巻博之、松本輝代、村井扶美佳、山際紀子、加藤治彦


飼育動物の体重の増減は成長状態の把握ばかりでなく餌料からの摂取熱量が適切かどうかの指標として有用である。鳥羽山ら(1989)は、体重と背鰭前方の胴周囲長及び体長の相関式を示しているが、体長は測定誤差が大きいという難点がある。新潟市水族館ではハクジラ亜目の身体測定の一部として4箇所の胴周囲長を測定しているが、胴周囲長と体重には正の相関があると予見されるため、調査した。

調査には飼育下のハンドウイルカ5頭(野生由来、雌、飼育年数9~19年、個体略号C、K、Y、R、A)を用いた。週1回の頻度でバースケール体重計に上陸させ体重を測定し、あわせて上陸伏臥姿勢及び上陸側臥姿勢をとらせ、メジャーを用いて胸鰭基部後方(G1)、背鰭基部前方(G2)、生殖溝直前(G3)、肛門上(G4)の胴周囲を測定した。

個体毎の各部周囲長と体重の相関を調査した結果、CはG1、KとYはG2、RはG3、AはG4と体重の相関が最も強く、体重は胴の特定部位の周囲長と必ずしも相関が強いとは言えない結果が得られた。単独の周囲長で最も体重との相関が強かった相関係数(R)の範囲は0.71~0.86だった。一方体重と4箇所の測定値の和の間には全個体で強い相関がみられ、Rの範囲は0.86~0.99だった。

この結果から、全個体の体重と周囲長の和の関係式を算出し、以下の数式を得た。
W=1.336Gs-400.8  (W:体重(㎏)、Gs=G1+G2+G3+G4:各部周囲長の和(Cm)) R=0.93

本調査ではハンドウイルカの体型が個体毎に異なるという結果が得られたが、4箇所の胴周囲長を測定し体型の個体差を補正することにより精度の高い体重推定が可能なことが明らかとなった。得られた関係式はストランディング個体や体重測定ができない場合に適用可能と思われる。

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ゴマフアザラシ新生仔の腸炎および後天性臍ヘルニア治療例

2009年 関東・東北ブロック水族館飼育技術者研究会

○ 田村 広野1),山﨑 幸雄1),岩尾 一1),小田 史彦2)
( 1)新潟市水族館マリンピア日本海,2)ノブ動物病院)


新潟市水族館では2009年3月18日に野外の展示水槽(水量300m3)の陸場でゴマフアザラシ Phoca largha が出産し,同所を柵で仕切り他個体と隔離して母獣と新生仔(雄,出生時:体長59㎝,体重8.04㎏)を飼育した。3月20日(2日齢)の朝に嘔吐と黄褐色水様下痢を示し,衰弱に陥った。下痢便のグラム染色とレントゲンの結果から,クロストリジウム属細菌による腸炎と産生ガスによる鼓腸症と推定された。

一時,危篤状態になったが,保温,皮下補液,浣腸,鎮痛剤,ステロイド剤,抗生剤による治療を行い,夕方には回復した。乳糖の異常発酵が発症原因と疑い授乳制限を行うため,夜間は新生仔を母獣から離して室内で飼育した。3日齢早朝,臍帯脱落部から腹壁まで達する直径約5mmの穴が開き,大網(腸間膜の一部)が5cmほど露出しているのを確認した。同日午後,動物病院にて吸入麻酔下で腹壁切開による臍ヘルニア整形術を施した。屋内飼育を継続し日中は適時,母獣の所に連れて行き授乳させ夜間は室内に戻した。腸炎および術創のため8日齢まで抗生剤注射を実施し,同日から母獣との同居飼育を再開し夜間も母獣に哺育,授乳させた。

術創の治療には毎日,抗生剤軟膏を塗布し11日齢に抜糸を行った。腸炎の治療は2日齢には胃カテーテルで整腸剤,電解質液,ブドウ糖液の投与を行い,3日齢は抗生剤,整腸剤,ブドウ糖液,エスビラックリキッド犬用(以下:エスビラック),4日齢から10日齢は抗生剤,整腸剤,エスビラック,水生哺乳動物用粉ミルクとした。18日齢より軽度の下痢が再発したため,20日齢まで抗生剤,整腸剤,エスビラックを投与した。4月11日(24日齢)に離乳に至り,体重は18.46㎏であった。

後天性臍ヘルニアの発症原因は,鼓腸症で腹圧が増加したことによる臍帯脱落部の脆弱化が一因と考えられた。

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アシナガスジエビの育成と幼期の形態

2008年 第53回水族館技術者研究会

展示課 ○ 新田 誠


アシナガスジエビは,房総半島および新潟県以南から九州沿岸にかけて分布する。 本種は,倉田(1968)により,神奈川県荒崎産の幼期の形態が報告されている。 この度,日本海側の北限域にあたる新潟県産の幼生を育成し,幼期の形態および生態を観察したので報告する。

親エビは,2008年7月に新潟県柏崎市で採集した。 自然抱卵後,発眼卵が確認された親エビをプラスチック水槽(400×300×200mm,水量20L)へ移動して孵出幼生を得た。 幼生は,室温が22℃に設定された室内で飼育し,照明は7~18時の11時間点灯した。 餌料は,栄養強化(プラスアクアラン,BASF Japan 製)したシオミズツボワムシを約40個体/mL与え,成長に伴い栄養強化したアルテミア幼生を投与した。 弱い通気を常時行い,底面の掃除と飼育水の1/3量換水を1日1回行った。

ゾエア幼生8期を経て,孵出33日後にメガロパ期となり着底した。1期は,全長平均2.35mm,甲長0.51mm,眼は頭胸甲と癒合して不動,第3腹節の背甲が 鎌状に隆起する。尾節周縁の羽状毛は7対。2期,全長平均2.89mm,甲長0.66mm,眼は有柄可動となる。頭胸甲に背歯と眼上棘が出現する。 3期,全長平均3.63mm,甲長0.70mm,背歯が2本となる。第6腹節と尾節が分離し,尾肢が出現する。4期,全長平均4.01mm,甲長0.76mm, 頭胸甲の背歯が3本になる。第5胸脚が著しく伸長し,尾肢の内肢が発達する。5期,全長平均4.87mm,甲長0.85mm,腹肢の原基が出現する。 6期,全長6.00㎜,甲長0.95mm,腹肢が内外肢に分離する。 7期,全長6.05㎜,甲長1.10mm,第1,第2胸脚がはさみ脚となる。8期,全長6.70㎜,甲長1.20mm,腹肢に短毛が認められる。 メガロパ期は,全長7.50㎜,甲長1.45mm,第2触角内肢が伸長し,額角の上縁に11歯,下縁に5歯が出現した。

幼期数は,倉田(1968)と同様であったが,幼期の羽状毛数やメガロパ期の額角歯数等が相違した。


ゾエア1期

アシナガスジエビ(親)


飼育下バイカルアザラシ Phoca sibirica の胎仔成長

2008年 日本野生動物医学会

○ 岩尾一1) ,進藤順治2) ,大越智香1) ,加藤結1) ,橋村一美1), 山崎幸雄1)
1)新潟市水族館マリンピア日本海,2)北里大学


【背   景】
鰭脚類の繁殖様式には着床遅延が存在する。受精卵が発生を胚盤胞期で停止した状態を数ヶ月間維持した後,着床し, 胚発生の再開および胎盤形成を開始する現象である。 着床遅延期間の調節は光周期刺激によると考えられている(Boyd, 1999)。 そのため, 鰭脚類の交尾期, 受精期, 妊娠期間, 胎仔齢の特定はしばしば困難である。 バイカルアザラシ Phoca sibirica はバイカル湖に棲息する淡水性アザラシであり, 国内複数の園館でも飼育展示されている。 しかし, 繁殖様式については, Thomas et al.(1982)による野生下の断片的な記載以降はほとんど報告がなく, 飼育下での繁殖例もまれである。 そこで, 飼育下での出産例をもとに, バイカルアザラシの胎仔成長パラメーターの推定が可能か検討した。

【材料と方法】
人工照明下(明期:8.5時間, 暗期:15.5時間)で屋内飼育されているバイカルアザラシの2003年11月から2007年12月までの出産例を分析対象とした。 前回の出産日の特定が可能だった流産時(n=3), 正常出産時(n=1)の胎仔重量(W)の3乗根を目的変数とし, 説明変数は前回の出産日からの日数(D) として回帰式を求めた。 ただし,正常出産の一例については,一年以内の出産が以前になかったため, Dは365日とした。得られた回帰式をもとに, 過去の出産例すべてについて(n=7), 後ろ向きに胎仔齢および交尾時期の推定を行った。 母獣の一頭については, 2007年12月の流産以降, 月1回もしくは2回の採血を行い, プロゲステロン(P4)とエストラジオール E2)の血中濃度をCLIA法で測定した。

【結果と考察】
W^(1/3)=0.063D- 6.787(r2=0.87, p=0.064)の回帰式が得られた。これより, 対象とした光条件下では, バイカルアザラシの雌は出産後, 着床が108日目に起き, 実妊娠期間は257日, 胎仔は着床後0.063 g^(1/3)/日で体重が増加すると推定された。 正常出産例では胎仔は着床後249日齢で出産され, 流産時の胎仔は76, 114, 143, 204, 214, 231日齢であったと求められた。 流産時の胎仔齢, 時期等に明瞭な関係はみられなかった。 回帰式単独では交尾期の特定はできなかった。しかし, 雌雄の行動変化や他種アザラシの例から, 出産後30日以内に発情が起きたと仮定すると, 全出産例の交尾期について, 時期的な偏りはみられなかった。よって, 対象条件下では, バイカルアザラシの雌は周年, 出産後まもなく発情し, また, 雄も受精可能な精子を周年 生産していると考えられた。血中ホルモン濃度については, 流産日から100日目の採血時にP4, E2ともに一過性の上昇が認められ, 黄体機能の再活性化および胚着床が, 回帰式からの推定時期と近い時期に起きたことが示唆された。

研究会発表資料  


新潟市水族館におけるクラゲ類の採集記録

2007年 関東・東北ブロック水族館飼育技術者研究会

展示課 ○大和 淳


新潟市水族館では1994年より継続してクラゲ類を展示している。1994年から2003年までは主にミズクラゲを常設展示していたが,2004年1月のクラゲコーナー新設にともない現在は8本の水槽を使用したクラゲ類の展示を行っている。常時7-8種のクラゲを展示する必要があるため,2004年4月より新潟県沿岸を対象としたクラゲ類の調査採集を開始した。調査採集開始後3年半が経過し一定の情報が蓄積されたため報告する。

調査採集は2004年4月から2007年10月上旬にかけて新潟県下越地方および中越地方に点在する漁港などで不定期に行い,調査採集地点,クラゲ種,個体数を記録した。調査採集地点は18ヶ所,回数は126回(同日に2ヶ所調査した場合は2回とカウント)。数回の乗船採集および素潜り採集以外は陸上から水ダモを使用して採集した。 また,水ダモが届かず採集を断念した個体で種名が確実なものについては「目視確認」として記録した.

記録されたクラゲ種は,刺胞動物門ヒドロ虫綱32種,立方クラゲ綱1種,鉢虫綱4種,有櫛動物門無触手綱1種,有触手綱7種の計45種であった。 実際に展示した種は18種で,その内,おおむね1-2ヶ月以上展示した種は9種であった。

採集方法が限定されているにもかかわらず45種ものクラゲが採集され展示の充実に貢献したと考える。今後の課題として,採集方法の多様化,"研究"を念頭に置いた採集計画の策定および実施,採集生物の長期飼育および繁殖,他園館との情報の共有化による広範囲のクラゲカレンダー作成などがあげられる。

研究会発表資料


座礁したオガワコマッコウの保護例

2007年 第33回海獣技術者研究会

○ 村井扶美佳1),加藤治彦1),鶴巻博之1),松本輝代1),新田誠1),岩尾一1)
  小林稔1),山際紀子1),長谷川泉1),榊原陽子1),窪寺恒己2)
(1)新潟市水族館マリンピア日本海,2)国立科学博物館)


2007年6月19日,新潟市北区松浜阿賀野川河口(37°57′N,139°8′E)にコマッコウ科と推定される雌成獣が生存漂着したため,新潟市水族館マリンピア日本海に搬入した.通報から搬入までに要した時間は約3時間であった.プール収容前に,外部形態の計測を行った結果,背鰭が背の中央付近に位置し背鰭高が体長の5%を占めることからオガワコマッコウ Kogia simus と同定した.2007年10月1日時点での(財)日本鯨類研究所ストランディングデータベースによると,国内での保護例は3例目である.

収容施設は屋内展示用プール (14.0×7.5×H3.0m)を使用した.飼育水温は22.1℃±0.3℃,飼育水残留塩素濃度は0.2ppm±0.1ppmであった(2007/6/19-2007/6/21).収容直後,自力遊泳し暗赤褐色の排泄物を出した.また体を倒立し頭部を水底に押し付け,潜行しようとする行動が繰り返し見られた.搬入から一時間半後には,この行動の出現頻度は低下し,水面に浮遊した状態で止まった.搬入翌日も水面浮遊状態を維持していた.補液等の治療を行うため陸上取り上げを試みたが,水中で保定する際,激しく暴れたため中止した.この際暗赤褐色の排泄物を出し,プールの視界は完全に得られなくなった.搬入3日目も水面浮遊状態が続いた.スルメイカを口元に差し出し,給餌を試みたが反応は無く,昼から嘔吐や吐血が続いた.夕方になり突然暴れ,高速遊泳や頭部を壁面に強打するなど異常行動を起こした.直後に取り上げたが,呼吸は確認されず死亡した.死亡時の体長と体重は,216㎝,147㎏であった.剖検の結果,右肺出血,心内膜内出血,解離性動脈瘤が確認され,直接の死因は出血による窒息および循環機能不全と考えられた.胃内容物から少なくとも4種の頭足綱の下顎板を同定した.

    


飼育下雄のカマイルカの体温変化と発情期との関係

2006年 第32回海獣技術者研究会

展示課 ○新田 誠、加藤治彦、進藤順治


新潟市水族館では、鯨目の健康管理の一環として肛門から約30㎝の結腸温(以下深部)の測定を実施している。深部を測定する理由は、肛門に近づくほど環境に影響され易く、測定値が低値となることが雌のバンドウイルカで確認されたためである。

同環境で飼育している雄のカマイルカ(体長220㎝,体重120㎏)で、肛門から約15㎝の結腸温(以下浅部)が、深部の体温より高値になる時期が見られたため、深部と浅部の体温測定を開始した。

測定期間は、2005年7月18日から2006年8月20日までの約1年間とし、毎朝、安静時の体温を測定した。 11月中旬から翌年の5月中旬までは深部が高く、浅部が低い値を示すが(AVE.±S.D.、深部36.2±0.33℃、浅部35.9±0.35℃)、開始直後から11月上旬までと翌年の5月下旬以降では、深部が低く、浅部が高い値を示した(深部36.3±0.26℃、浅部36.7±0.32℃)。 体温変化を血液中テストステロン値および尿沈渣精子数と比較した結果、深部が低値となる11月上旬まで尿沈渣精子の出現が見られ、再び低値となる5月下旬に血液中テストステロン値の444ng/dlへの急激な増加が見られた。

血液中テストステロン値の増加時期および尿沈渣精子の出現時期を雄のカマイルカの発情期とすると(新田他,2005)、深部が浅部の体温より低値になる時期と発情期が一致した。  鯨目は、血流を利用して精巣を冷却することが報告されており(Williams他,2002)、発情期に精巣の冷却機能が働いていることが示唆された。


勃起


バイカルアザラシの人工哺育

2006年 第32回海獣技術者研究会

展示課 ○栗城智香、新原扶美佳、吉田直幸、野村卓之、進藤順治、山崎幸雄


バイカルアザラシ Phoca sibirica が新潟市水族館において、国内で初めて飼育下繁殖し、人工哺育に成功したので報告する。飼育環境は、水槽6×5×1.5(D)m、50立方メートル、陸場13.8㎡の規模で、開放重力式濾過槽を備え、水温9-18℃、室温8-19℃で変化した。母獣は1990年7月2日に推定年齢0歳で搬入された雄1頭と雌2頭の内の1頭。2001年より交尾行動が観察され、2004年に死産の経験がある。出産時16歳で、11月頃より体重増加が見られ、経過を観察した。仔獣は2006年4月18日朝に展示室の陸場で発見された。胎盤は陸場に排出されており、490gだった。育仔行動が見られなかったため隔離し、人工哺育を開始した。授乳はビニールホース(内径5mm,外径7mm)を使用してミルクを胃内に流し込む方法をとった。母獣より採取した乳汁2mlを初回に与えた。ミルクは4-6回/日、340-1080ml/日、526-3007kcal/日(0日齢-36日齢)を与えた。市販の子犬用ミルクと水生哺乳動物用粉ミルクを用い、段階に応じてマグロ肉、マアジ肉を混合し、その後はマアジを与えた。仔獣飼育室の温度は15-21℃、水温は14-19℃の範囲にあった。

出生時の仔獣の体長は約63cm、体重は3.86kgであったが、15日齢で7.88kg、36日齢(断乳時)には11.9kgに達した。新生仔毛の換毛は10日齢頃から始まり、25日齢頃に終了した。39日齢より自力摂餌が可能となり、52日齢より展示室へ移動した。9月2日現在、体重20.28kgと順調に成育している。

  


飼育下雄のカマイルカの血液中テストステロン値の増加と尿沈渣精子数の年変動

2005年 第31回海獣技術者研究会

展示課 ○新田誠,加藤治彦,進藤順治


新潟市水族館では、鯨類の繁殖生理研究の一環としてカマイルカ(2001年1月29日野生捕獲、雄、体長220㎝、体重120㎏)の血液中テストステロン(Tng/dl,以下T)と尿沈渣精子数(S個/HPF、以下S)の測定を定期的に実施している。
採血は月に1-2回行い、Tの増加が確認された後は週に1回とし、採尿は週1回の間隔とした。 採血は2003年1月13日-2004年12月14日、採尿は2003年1月8日-2004年12月2日の約2年間実施し、血液37検体、尿100検体の試料を得た。 血液はヘパリン処理をして血漿に遠心分離後、Tの測定を臨床検査機関へ依頼した。尿は尿沈渣を鏡検し、1視野400倍(HPF)の精子数を数えた。

Tの変動範囲は2003年が29-1158、2004年が35-4700であった。 2003年では7月上旬、2004年では6月下旬に急激に増加し、両年ともに7月に最大となり9月上旬に減少する傾向が見られた。 Sの変動範囲は、2003年が0-100<、2004年が0-494であった。2003年では7月上旬に出現し、8月下旬と10月上旬に100<を最高値とする増減を反復し、 11月中旬まで出現した(0.01-100<)。2004年では5月中旬に出現し、8月上旬と9月上-中旬に494を最高値とする増減を反復し、12月上旬まで出現した(0.02-494)。 尿沈渣精子は血中テストステロンの急激な増加後、35-49日遅れて高濃度で出現し、血中テストステロンの減少以降も21-48日間、不規則な増減を伴いながら出現することが認められた。


精子採取


飼育下カマイルカの尿性状

2004年 第30回海獣技術者研究会

展示課 加藤治彦、新田誠、進藤順治、鈴木倫明


尿は、非侵害的に得られる生物試料で、動物の健康や生理状態の判断に有効な指標であるが、水中生活者である鯨目尿試料の採取は飼育下 であっても困難なため、その性状に関する報告は少ない。上陸横臥姿勢での排尿行動を条件付け、採取した。雄のカマイルカ Legenorhynchus obliquidens 1頭(2002.1.29 野生捕獲、体長220㎝,体重120㎏)の尿性状について報告する。 2002年7月10日から2004年6月30日までの約2年間に亘り、約1週間間隔で合計103の尿試料を採取し、 22項目の物理、化学的検査等の結果、以下の知見が得られた。

【物理的検査】
色調:透明淡黄緑色, 尿比重(ATAGO尿比重屈折計ユリコンJE使用):(平均±標準偏差,標本数=)
1.050±0.004,103,採尿量(ml):37.7±33.1,103.

【化学的検査】
pH:6±0.4,102,ウロビリノーゲン(±):100%,タンパク(-):97.1%,糖(-):100%,ビリルビン(-):99.0%,潜血 (-):99.0%.

【電解質濃度】
尿素窒素(mg/dl):2826±308.6,101,クレアチニン(mg/dl):55±11.8,101,Na(mEq/l):247±62.4,102,
K(mEq/l):126±27.8,102,Cl(mEq/l):250±57.4,102,Ca(mg/dl):5±4.3,102,Mg(mg/dl):9±3.7,102,
P(mg/dl):147±40.1,102,浸透圧(m0sm/l):1867±134.9,102.

【沈渣の鏡検(400倍1視野当り)】
赤血球(<1個):99.0%,白血球(<1個):100%,上皮細胞(<1個):99.0%,精子出現頻度:31.1%.


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