2024年 JAA 第5回水族館研究会
展示課 石田茉帆,岩尾一,石川訓子
2023年2月14日,新潟市西区五十嵐浜に座礁したカマイルカLagenorhynchus obliquidens(雄,体長185cm,体重85kg)を保護し,屋内に設置した円形簡易プール(直径366cm,水深76cm,水量8㎥)に収容した.搬入時に大きな外傷はなかったが,尾部の右屈曲と硬直,姿勢の維持が困難であったため,24時間体制での介助を8日間実施した.9日目に自発遊泳を期待し,屋内プール(14m×7.5m,水深3m,水量300 ㎥)に移動したが,体の硬直が強く,遊泳不良から沈降した.そのため,当個体の遊泳能力回復を目的に加療を開始した.まず,誤嚥や溺死を防ぐ目的で,監視不在の夜間は担架に収容した.夜間の担架収容日数は計24日で,不自然な姿勢や体のこわばりが多く,担架による擦過傷が発生した.次に体位の平衡と浮力維持,自立遊泳の回復を目的に,32日目から自作した遊泳補助具を終日装着した.補助具は厚さ5mmのウェットスーツを活用し,体に密着するようベルト付きのジャケット型とした.左右に浮きを付けて浮力の調節を行い,転覆や衝突防止のために塩化ビニルパイプで作製したバンパーを取り付けた.その結果,担架よりも自然な姿勢維持が可能で,局所的な体の負担を軽減することができた.34日目から尾柄部の硬直緩和と運動機能回復を期待して,簡易プール内で背鰭を持ち上げて自発的な尾柄の上下運動や,係員が後方から軽く追って前進を促す訓練などを実施した.これらの訓練を1日1-2回(5分程度/1回)行い,開始から約10日後には自発的な尾柄の上下運動が確認されるようになった.56日目以降は屋内プールに再収容し,呼吸,姿勢維持および尾柄の上下運動を確認しながら,段階的に補助具を外した.66日目以降に個体干渉による刺激を与えるため,他個体との同居を実施したところ,遊泳速度の上昇,潜水の兆候が見られ,75日目には補助具を全てなくした遊泳が可能となった.尾部の右屈曲と硬直の緩和とともに,高速遊泳やブリーチ,水深3mへの潜水が見られ十分に運動能力が回復した.遊泳不良の個体に実施したこれらのアプローチのうち,身体の動きを妨げない補助具の装着,遊泳能力の向上を促す訓練,自力での遊泳を誘発する他個体との同居は,遊泳の回復に有効であったと考える.なお当個体は,82日目に長岡市寺泊港2-3km沖で漁業者の協力のもと放流した.