調査・研究

フンボルトペンギンの人為的なペア組み替え

2010年 第20回ペンギン会議全国大会

展示課 ○山田 篤


フンボルトペンギンは、CITESによって国際商取引が禁止されているため、附属書に掲載された1980年代初頭から現在に至るまで野生個体が輸入されていない。そのため、野生由来のファウンダー(創始個体)はすでに死亡しているか、生きていても繁殖不能な年齢に達している。2008年末の血統登録調査により、国内77施設で1675羽の飼育が確認されているが、近親交配を避けるためと、同一家系の子孫が増えすぎるのを防ぐために、繁殖制限を行っている施設が多い。 当館では、1977年に川原鳥獣店より12羽を購入して飼育を開始した。そのうちの8羽が繁殖に関与して、現在は74羽に増えている。少ないファウンダーからの繁殖であるため、当館も例に漏れず、近親交配を避けるための繁殖制限を行っている。

2008年末に形成されていた31ペアのうち、近親交配になるものが12ペア、オスが高齢で受精能力がないものが7ペア、どちらか一方が生理的もしくは遺伝的な異状で繁殖できないものが4ペア、メス同士のものが4ペアで、特に問題がなく繁殖可能なものはわずか4ペアであった。 フンボルトペンギン繁殖計画では、人為的なペアの解消がストレスを与えるとし、種卵の移動による新たな家系導入を推奨しているが、導入個体が自園館で飼育している個体と子孫を残すと、新たに近親交配となるペアが発生する恐れがある。当館でも、他の園館から種卵の移動による新たな家系導入を行っているが、導入個体と当館ファウンダー血縁個体がペアを形成して繁殖し、その繁殖個体が血縁上の問題で繁殖できない状態に陥っている。

そこで、今後の繁殖個体群の形成を優先し、人為的なペア組み替えの試みを下記の3例実施した。

  1. 2009年3月に、近親個体とペアを形成していたオスとメス各2羽を、ペアを人為的に解消して繁殖用隔離スペースに移動した。しばらくの間は4羽が一緒に行動していたが、3か月後の6月に1ペアが形成された。

  2. 上記の組み替えによって展示スペースに残されたオス1羽のペアリングもできた。この個体はペアを人為的に解消した1か月後に新たにペアを形成したが、相手が当該個体の子であったため、何度か人為的な操作(個体の移動)を行って血縁のない個体とのペアができた。このペアは9月に産卵したが、残念ながら胚の発生が止まって繁殖には至っていない。

  3. 昨年の繁殖個体(オス)がペアの相手を探していて次々と血縁のある個体とペアになった。そのため、2009年9月にメス同士のペアを人為的に解消して一方を隔離し、もう一方の個体と当該個体のペアリングを展示スペースで行った。2週間後に狙い通りにペアを形成したが、未だに巣を確保できないでいる。


以上の結果、全ペア数は29に減ったが、特に問題がなく繁殖可能なペアが7ペアに増加した(①の残りの2個体はペアリング中)。今後の繁殖に期待する。ただし、オスの高齢化が進んでいるため、あと2,3年で繁殖不能な年齢に達してしまうと考えている。その間にできるだけ受精卵を回収して仮親に預けて当館のファウンダー血縁個体を増やし、同時に種卵の移動による新たな家系導入も計画的に行って、当館の飼育個体群をより長く存続させようと考えている。

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生物多様性条約と動物園水族館~CEPAの紹介(話題提供・ポスター)

2010年 第50回日本動物園水族館教育研究会

管理課 大和 淳


2010年10月18日~29日に名古屋市で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催され、愛知ターゲットをはじめとするいくつもの議案が採択、決定された。

2002年にオランダで行われたCOP6で「2010年目標」が採択されたが、ほとんど達成されなかった。日本のNGO である生物多様性条約市民ネットワーク(CBD市民ネット)はその原因のひとつを「2010年目標が認知されていなかったから」とし、2011年からの10年を「国連生物多様性の10年」とするよう提案。それが日本政府案となり、国連採択するようCOP10で勧告決議された。その中でも「広報、教育、普及啓発(CEPA)」が重要と認識され、「国連生物多様性の10年のためのCEPA活用及び拠点・運営体制の設置、並びにCEPAの関連ステークホルダーにILC(先住民族等)を含むこと等」が決定された。

CEPA(Communication,Education And Public Awareness)とは、生物多様性条約第13条に定められた「公衆のための教育及び啓発」についての活動義務であり、生物多様性保全に関わる者にとって重要な「ツール」であり「キーワード」である。愛知ターゲット等を推進するべく国内のセクターを超えたCEPA組織づくり、情報共有プラットフォームづくり、作業計画の策定をする必要がある。

動物園と水族館は年間のべ6500万人もの来場者がある施設である(2009年、JAZA加盟園館データより)。CEPAにとって動物園水族館は非常に重要な「場」である。同時に、動物園水族館職員がCEPAという「ツール」「キーワード」を知り、CEPA組織と連係することで、より効果的な生物多様性保全の取り組みができると考えられる。


腸管クロストリジウム症を疑ったハンドウイルカの一例

2010年 第36回海獣技術者研究会

展示課 ○岩尾一,山際紀子,鶴巻博之


腸管クロストリジウム症は, クロストリジウム属菌によって引き起こされる消化器疾患の総称である. 鯨類の腸管クロストリジウム症は, 国内では急性の死後判明例のみが報告されており, 主な起因菌は Clostridium perfringens (以下Cp) である(寺沢, 2007). Cpは腸管の常在菌であり, 腸管クロストリジウム症の生前診断は困難である(Marks And Kather, 2006).当館で飼育しているバンドウイルカ Tursiops truncatus での腸管クロストリジウム症の疑い例と, 投薬介入後の経過を報告する。

2009年4月5日(第1病日), 1頭のバンドウイルカ(雌:国内血統登録番号388, 体長298cm, 体重270kg)が早朝, クリーム色の粘稠便を排泄し, 塗沫検査では便中には多数の白血球が出現した.その後, 便の色調は緑褐色から山吹色まで変化し, 便中に散発的にCp様のグラム陽性大型菌や白血球が少数出現(<5個/400倍1視野)するものの, 体温, 行動に異常を認めないため, 経過観察を続けていたが, 第18病日には多数のCp様菌体が出現し(>20個/1000倍1視野), 第20病日には黄色の粘稠便を排泄し, 便中には白血球や赤血球の出現も認めた。

異常便は腸管クロストリジウム症によるものと仮診断し, 第20病日より, メトロニダゾール(以下MZ)(10mg/Kg 1日2回 経口投与)の投与を開始すると, 便性状が正常化したため, MZ投与は第30病日で終了した。しかし, 第42病日に再度, 粘稠便の排泄とCp様菌体の便中出現を認めたため, 再発と判断し, 第52病日までMZを投与した。その後, 現在まで再発を認めていない。

第20病日に採取した便からは, 嫌気培養でCpが7日後に分離同定された。治療期間中を通じて, 体温, 行動, 血液検査での異常は認めなかった。本症例は, 培養同定と塗沫染色の結果, MZへの反応性から, Cpによる腸管クロストリジウム症であったと強く疑われ, 便の顕微鏡検査が診断と治療評価に有効であったと考えられた。

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ゲンタマイシンを筋肉注射したハンドウイルカにおける治療薬物モニタリング

2010年 第16回日本野生動物医学会

展示課 ○岩尾一、村井扶美佳、鶴巻博之


アミノグリコシド系抗生剤ゲンタマイシン(GM)には腎毒性があるため, 投与時は治療薬物モニタリング(TDM)の実施が推奨されている(Papich And Riviere, 2007)。 Enterococcus faecalisによる腎盂腎炎に罹患しているハンドウイルカ(210kg)に, アモキシシリン(25mg/Kg, PO, Bid)と同時に, GMを筋肉注射で投与した。

GMの目標血中濃度はピーク値20μg/Mlとし, 家畜間のアロメトリー分析から推定したGM分布容積(Vd)(206ml/Kg)(Martin-Jimenez And Riviere, 2001), 90%と仮定したバイオアベイラビリティ(BA)に基づき, 実投与量を4.8mg/Kg, Sidと決定した。TDMはGMの投与開始5日目に, 筋肉注射後の4つの採血点(0, 1, 3, 6時間後)で実施した。結果, ピーク値の実測値は14.1μg/Mlとなり, BAは61.2%と推定された。

消失半減期(T1/2), BAで補正したVd, クリアランス(Cl)は1.45時間, 202.6 Ml/Kg, 96.65 Ml/Kg/Hとなった。トラフ値は検出限界以下で, 血液や尿検査で腎毒性は認めなかった。家畜と比較し, T1/2, Vd, Clは大きく違わなかったが, BAは低くなった。理由として注射部位からの薬剤の漏出あるいは推定よりも分布容積が大きかった可能性が考えられた。同系薬のアミカシンを筋肉注射した他種の鯨類でも, 類似したBAの低さが報告されている(KuKanich Et Al, 2004)。

鯨類でのアミノグリコシド系薬の投与量を適切に設計するためには, 静脈注射時のデータとの比較が今後必要である。

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ハンドウイルカの胴周囲長と体重との相関

2009年 第35回海獣技術者研究会

展示課 ○小林稔、鶴巻博之、松本輝代、村井扶美佳、山際紀子、加藤治彦


飼育動物の体重の増減は成長状態の把握ばかりでなく餌料からの摂取熱量が適切かどうかの指標として有用である。鳥羽山ら(1989)は、体重と背鰭前方の胴周囲長及び体長の相関式を示しているが、体長は測定誤差が大きいという難点がある。新潟市水族館ではハクジラ亜目の身体測定の一部として4箇所の胴周囲長を測定しているが、胴周囲長と体重には正の相関があると予見されるため、調査した。

調査には飼育下のハンドウイルカ5頭(野生由来、雌、飼育年数9~19年、個体略号C、K、Y、R、A)を用いた。週1回の頻度でバースケール体重計に上陸させ体重を測定し、あわせて上陸伏臥姿勢及び上陸側臥姿勢をとらせ、メジャーを用いて胸鰭基部後方(G1)、背鰭基部前方(G2)、生殖溝直前(G3)、肛門上(G4)の胴周囲を測定した。

個体毎の各部周囲長と体重の相関を調査した結果、CはG1、KとYはG2、RはG3、AはG4と体重の相関が最も強く、体重は胴の特定部位の周囲長と必ずしも相関が強いとは言えない結果が得られた。単独の周囲長で最も体重との相関が強かった相関係数(R)の範囲は0.71~0.86だった。一方体重と4箇所の測定値の和の間には全個体で強い相関がみられ、Rの範囲は0.86~0.99だった。

この結果から、全個体の体重と周囲長の和の関係式を算出し、以下の数式を得た。
W=1.336Gs-400.8  (W:体重(㎏)、Gs=G1+G2+G3+G4:各部周囲長の和(Cm)) R=0.93

本調査ではハンドウイルカの体型が個体毎に異なるという結果が得られたが、4箇所の胴周囲長を測定し体型の個体差を補正することにより精度の高い体重推定が可能なことが明らかとなった。得られた関係式はストランディング個体や体重測定ができない場合に適用可能と思われる。

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ゴマフアザラシ新生仔の腸炎および後天性臍ヘルニア治療例

2009年 関東・東北ブロック水族館飼育技術者研究会

○ 田村 広野1),山﨑 幸雄1),岩尾 一1),小田 史彦2)
( 1)新潟市水族館マリンピア日本海,2)ノブ動物病院)


新潟市水族館では2009年3月18日に野外の展示水槽(水量300m3)の陸場でゴマフアザラシ Phoca largha が出産し,同所を柵で仕切り他個体と隔離して母獣と新生仔(雄,出生時:体長59㎝,体重8.04㎏)を飼育した。3月20日(2日齢)の朝に嘔吐と黄褐色水様下痢を示し,衰弱に陥った。下痢便のグラム染色とレントゲンの結果から,クロストリジウム属細菌による腸炎と産生ガスによる鼓腸症と推定された。

一時,危篤状態になったが,保温,皮下補液,浣腸,鎮痛剤,ステロイド剤,抗生剤による治療を行い,夕方には回復した。乳糖の異常発酵が発症原因と疑い授乳制限を行うため,夜間は新生仔を母獣から離して室内で飼育した。3日齢早朝,臍帯脱落部から腹壁まで達する直径約5mmの穴が開き,大網(腸間膜の一部)が5cmほど露出しているのを確認した。同日午後,動物病院にて吸入麻酔下で腹壁切開による臍ヘルニア整形術を施した。屋内飼育を継続し日中は適時,母獣の所に連れて行き授乳させ夜間は室内に戻した。腸炎および術創のため8日齢まで抗生剤注射を実施し,同日から母獣との同居飼育を再開し夜間も母獣に哺育,授乳させた。

術創の治療には毎日,抗生剤軟膏を塗布し11日齢に抜糸を行った。腸炎の治療は2日齢には胃カテーテルで整腸剤,電解質液,ブドウ糖液の投与を行い,3日齢は抗生剤,整腸剤,ブドウ糖液,エスビラックリキッド犬用(以下:エスビラック),4日齢から10日齢は抗生剤,整腸剤,エスビラック,水生哺乳動物用粉ミルクとした。18日齢より軽度の下痢が再発したため,20日齢まで抗生剤,整腸剤,エスビラックを投与した。4月11日(24日齢)に離乳に至り,体重は18.46㎏であった。

後天性臍ヘルニアの発症原因は,鼓腸症で腹圧が増加したことによる臍帯脱落部の脆弱化が一因と考えられた。

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アシナガスジエビの育成と幼期の形態

2008年 第53回水族館技術者研究会

展示課 ○ 新田 誠


アシナガスジエビは,房総半島および新潟県以南から九州沿岸にかけて分布する。 本種は,倉田(1968)により,神奈川県荒崎産の幼期の形態が報告されている。 この度,日本海側の北限域にあたる新潟県産の幼生を育成し,幼期の形態および生態を観察したので報告する。

親エビは,2008年7月に新潟県柏崎市で採集した。 自然抱卵後,発眼卵が確認された親エビをプラスチック水槽(400×300×200mm,水量20L)へ移動して孵出幼生を得た。 幼生は,室温が22℃に設定された室内で飼育し,照明は7~18時の11時間点灯した。 餌料は,栄養強化(プラスアクアラン,BASF Japan 製)したシオミズツボワムシを約40個体/mL与え,成長に伴い栄養強化したアルテミア幼生を投与した。 弱い通気を常時行い,底面の掃除と飼育水の1/3量換水を1日1回行った。

ゾエア幼生8期を経て,孵出33日後にメガロパ期となり着底した。1期は,全長平均2.35mm,甲長0.51mm,眼は頭胸甲と癒合して不動,第3腹節の背甲が 鎌状に隆起する。尾節周縁の羽状毛は7対。2期,全長平均2.89mm,甲長0.66mm,眼は有柄可動となる。頭胸甲に背歯と眼上棘が出現する。 3期,全長平均3.63mm,甲長0.70mm,背歯が2本となる。第6腹節と尾節が分離し,尾肢が出現する。4期,全長平均4.01mm,甲長0.76mm, 頭胸甲の背歯が3本になる。第5胸脚が著しく伸長し,尾肢の内肢が発達する。5期,全長平均4.87mm,甲長0.85mm,腹肢の原基が出現する。 6期,全長6.00㎜,甲長0.95mm,腹肢が内外肢に分離する。 7期,全長6.05㎜,甲長1.10mm,第1,第2胸脚がはさみ脚となる。8期,全長6.70㎜,甲長1.20mm,腹肢に短毛が認められる。 メガロパ期は,全長7.50㎜,甲長1.45mm,第2触角内肢が伸長し,額角の上縁に11歯,下縁に5歯が出現した。

幼期数は,倉田(1968)と同様であったが,幼期の羽状毛数やメガロパ期の額角歯数等が相違した。


ゾエア1期

アシナガスジエビ(親)


飼育下バイカルアザラシ Phoca sibirica の胎仔成長

2008年 日本野生動物医学会

○ 岩尾一1) ,進藤順治2) ,大越智香1) ,加藤結1) ,橋村一美1), 山崎幸雄1)
1)新潟市水族館マリンピア日本海,2)北里大学


【背   景】
鰭脚類の繁殖様式には着床遅延が存在する。受精卵が発生を胚盤胞期で停止した状態を数ヶ月間維持した後,着床し, 胚発生の再開および胎盤形成を開始する現象である。 着床遅延期間の調節は光周期刺激によると考えられている(Boyd, 1999)。 そのため, 鰭脚類の交尾期, 受精期, 妊娠期間, 胎仔齢の特定はしばしば困難である。 バイカルアザラシ Phoca sibirica はバイカル湖に棲息する淡水性アザラシであり, 国内複数の園館でも飼育展示されている。 しかし, 繁殖様式については, Thomas et al.(1982)による野生下の断片的な記載以降はほとんど報告がなく, 飼育下での繁殖例もまれである。 そこで, 飼育下での出産例をもとに, バイカルアザラシの胎仔成長パラメーターの推定が可能か検討した。

【材料と方法】
人工照明下(明期:8.5時間, 暗期:15.5時間)で屋内飼育されているバイカルアザラシの2003年11月から2007年12月までの出産例を分析対象とした。 前回の出産日の特定が可能だった流産時(n=3), 正常出産時(n=1)の胎仔重量(W)の3乗根を目的変数とし, 説明変数は前回の出産日からの日数(D) として回帰式を求めた。 ただし,正常出産の一例については,一年以内の出産が以前になかったため, Dは365日とした。得られた回帰式をもとに, 過去の出産例すべてについて(n=7), 後ろ向きに胎仔齢および交尾時期の推定を行った。 母獣の一頭については, 2007年12月の流産以降, 月1回もしくは2回の採血を行い, プロゲステロン(P4)とエストラジオール E2)の血中濃度をCLIA法で測定した。

【結果と考察】
W^(1/3)=0.063D- 6.787(r2=0.87, p=0.064)の回帰式が得られた。これより, 対象とした光条件下では, バイカルアザラシの雌は出産後, 着床が108日目に起き, 実妊娠期間は257日, 胎仔は着床後0.063 g^(1/3)/日で体重が増加すると推定された。 正常出産例では胎仔は着床後249日齢で出産され, 流産時の胎仔は76, 114, 143, 204, 214, 231日齢であったと求められた。 流産時の胎仔齢, 時期等に明瞭な関係はみられなかった。 回帰式単独では交尾期の特定はできなかった。しかし, 雌雄の行動変化や他種アザラシの例から, 出産後30日以内に発情が起きたと仮定すると, 全出産例の交尾期について, 時期的な偏りはみられなかった。よって, 対象条件下では, バイカルアザラシの雌は周年, 出産後まもなく発情し, また, 雄も受精可能な精子を周年 生産していると考えられた。血中ホルモン濃度については, 流産日から100日目の採血時にP4, E2ともに一過性の上昇が認められ, 黄体機能の再活性化および胚着床が, 回帰式からの推定時期と近い時期に起きたことが示唆された。

研究会発表資料  


新潟市水族館におけるクラゲ類の採集記録

2007年 関東・東北ブロック水族館飼育技術者研究会

展示課 ○大和 淳


新潟市水族館では1994年より継続してクラゲ類を展示している。1994年から2003年までは主にミズクラゲを常設展示していたが,2004年1月のクラゲコーナー新設にともない現在は8本の水槽を使用したクラゲ類の展示を行っている。常時7-8種のクラゲを展示する必要があるため,2004年4月より新潟県沿岸を対象としたクラゲ類の調査採集を開始した。調査採集開始後3年半が経過し一定の情報が蓄積されたため報告する。

調査採集は2004年4月から2007年10月上旬にかけて新潟県下越地方および中越地方に点在する漁港などで不定期に行い,調査採集地点,クラゲ種,個体数を記録した。調査採集地点は18ヶ所,回数は126回(同日に2ヶ所調査した場合は2回とカウント)。数回の乗船採集および素潜り採集以外は陸上から水ダモを使用して採集した。 また,水ダモが届かず採集を断念した個体で種名が確実なものについては「目視確認」として記録した.

記録されたクラゲ種は,刺胞動物門ヒドロ虫綱32種,立方クラゲ綱1種,鉢虫綱4種,有櫛動物門無触手綱1種,有触手綱7種の計45種であった。 実際に展示した種は18種で,その内,おおむね1-2ヶ月以上展示した種は9種であった。

採集方法が限定されているにもかかわらず45種ものクラゲが採集され展示の充実に貢献したと考える。今後の課題として,採集方法の多様化,"研究"を念頭に置いた採集計画の策定および実施,採集生物の長期飼育および繁殖,他園館との情報の共有化による広範囲のクラゲカレンダー作成などがあげられる。

研究会発表資料


座礁したオガワコマッコウの保護例

2007年 第33回海獣技術者研究会

○ 村井扶美佳1),加藤治彦1),鶴巻博之1),松本輝代1),新田誠1),岩尾一1)
  小林稔1),山際紀子1),長谷川泉1),榊原陽子1),窪寺恒己2)
(1)新潟市水族館マリンピア日本海,2)国立科学博物館)


2007年6月19日,新潟市北区松浜阿賀野川河口(37°57′N,139°8′E)にコマッコウ科と推定される雌成獣が生存漂着したため,新潟市水族館マリンピア日本海に搬入した.通報から搬入までに要した時間は約3時間であった.プール収容前に,外部形態の計測を行った結果,背鰭が背の中央付近に位置し背鰭高が体長の5%を占めることからオガワコマッコウ Kogia simus と同定した.2007年10月1日時点での(財)日本鯨類研究所ストランディングデータベースによると,国内での保護例は3例目である.

収容施設は屋内展示用プール (14.0×7.5×H3.0m)を使用した.飼育水温は22.1℃±0.3℃,飼育水残留塩素濃度は0.2ppm±0.1ppmであった(2007/6/19-2007/6/21).収容直後,自力遊泳し暗赤褐色の排泄物を出した.また体を倒立し頭部を水底に押し付け,潜行しようとする行動が繰り返し見られた.搬入から一時間半後には,この行動の出現頻度は低下し,水面に浮遊した状態で止まった.搬入翌日も水面浮遊状態を維持していた.補液等の治療を行うため陸上取り上げを試みたが,水中で保定する際,激しく暴れたため中止した.この際暗赤褐色の排泄物を出し,プールの視界は完全に得られなくなった.搬入3日目も水面浮遊状態が続いた.スルメイカを口元に差し出し,給餌を試みたが反応は無く,昼から嘔吐や吐血が続いた.夕方になり突然暴れ,高速遊泳や頭部を壁面に強打するなど異常行動を起こした.直後に取り上げたが,呼吸は確認されず死亡した.死亡時の体長と体重は,216㎝,147㎏であった.剖検の結果,右肺出血,心内膜内出血,解離性動脈瘤が確認され,直接の死因は出血による窒息および循環機能不全と考えられた.胃内容物から少なくとも4種の頭足綱の下顎板を同定した.

    


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