調査・研究

コシノハゼの生息地の発見と飼育

2020年3月
展示課 田村広野


コシノハゼGymnogobius nakamuraeは、新潟県と山形県に生息するハゼ科ウキゴリ属の淡水魚です。以前は、ジュズカケハゼ鳥海山周辺固有種と呼ばれていましたが、1907年に新潟県長岡市を基産地として新種記載されていたコシノハゼと同種であることが判明し、現在は、コシノハゼが標準和名に用いられています。環境省のレッドリストでは、ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高い絶滅危惧ⅠA類に評価されています。また、2019年に国内希少野生動植物種に指定され、「種の保存法」に基づき、捕獲や譲渡等が原則として禁止されています。
当館では、新潟県内の生息地の把握と生態の解明を目的に、環境省より捕獲等の許可を得て、2019年7月より調査を行っています。採集調査と採集個体のDNA解析による種判定により、新潟県下越地方の3箇所の溜池で生息を確認しました。さらに採集個体の一部を飼育することで、底砂に頻繁に潜り込む、夜間に活発になるなどの行動生態が明らかになりました。


コシノハゼ


生息する溜池




砂に潜る2個体(黒線楕円内)



夜間に活発になる


ハンドウイルカの性周期

2007年1月 更新
展示課    石田 祐子


マリンピア日本海では、鯨類の成長や繁殖生理研究の一環として、血中のホルモン濃度を測定しています。

 ホルモンについて
ホルモンは、内分泌腺(下垂体・甲状腺・副甲状腺・膵臓・副腎・精巣や卵巣)から分泌される物質で、 体の各部の機能を保ち、増進する作用があります。
繁殖活動に関係の深いホルモンには、視床下部ホルモン・下垂体ホルモン・卵巣ホルモン・ 甲状腺ホルモン・上皮小体(副甲状腺)ホルモン・副腎皮質ホルモンなどがあります。これらが複雑に係わり合い、 繁殖活動を調節しています。
マリンピア日本海では、ハンドウイルカ Tursiops truncatus gilli の雌に対して、 繁殖期や妊娠の指標として測定することが可能な卵巣ホルモンのひとつであるプロゲステロンの濃度を調べています。
プロゲステロンは、雌の卵巣から分泌されるホルモンで、受精卵着床のための準備を行い、妊娠を維持する作用を持ちます。 排卵後に上昇し、妊娠すれば高い値が維持されるので、排卵や妊娠を確定する目安の一つになります。

 血中プロゲステロン濃度の測定方法
イルカの尾ビレの血管から約2mlの血液を採取し、抗凝固剤(ヘパリン)の入ったサンプル管へ入れます。 そのサンプルを4000回転/分で10分間、遠心分離させると約0.5mlの血漿を採取することができ、 血漿からプロゲステロン濃度を測定します。
基本的には2週間に1回の割合で血液採取を行っていますが、行動に変化がみられた時には採取頻度を上げます。

 結果
図は「クロ」(推定年齢:18才程度以上、体重:290~260kg)と「キャンディー」 (推定年齢:19才程度以上、体重:284~263kg)の2003年9月10日から2006年9月7日までのプロゲステロン濃度の変化を示したものです。
「クロ」は、2003年9月に19ng/mlと高い値がみられましたが、少しずつ下がっていき、12月には1.4ng/mlと低くなりました。 2004年1月から5月までの間は測定していませんが、5月から7月にかけて0.4~1.6ng/mlと低い値が続いたのちに、9月半ばまで10ng/ml以上の高い値でした。 この時に最高値19.7ng/mlがみられました。2004年12月から2005年7月にかけて0.6~0.1ng/ml以下の低い値が続いたのち、 7月後半と8月後半に高い値がみられ、その後から2006年9月現在まで0.9~0.2ng/mlと低い値が続いています。「キャンディー」は、2003年9月から20ng/ml以上の高い値が続いていますが、11月後半には0.5ng/mlと低い値がみられました。 2004年は、上昇と下降が繰り返されました。1、2月に低下した後、3月から高い値が続き、最高値の32ng/mlがみられ、6月には0.2ng/mlと低い値ののち、 7月から値が上昇していきますが、10月と12月に低い値がみられました。2005年1月から3月には、3.5~17.3ng/mlと比較的高い値がみられましたが、 4月から6月にかけて0.3~0.1以下の低い値がみられています。その後何回か高い値が見られたが、11月から2006年8月の最終採取まで低い値が続いています。


血液中プロゲステロンの周年変化


 考察
「クロ」は、2004年1月から4月間は未測定ですが、2005年のデータより、低い値が続いていた可能性があります。 2004年4月から2005年5月のデータから推測すると、冬から春にかけては排卵せず、夏から秋に排卵するという周期性がある様に思われます。 そして、2003年から2006年の4年間のプロゲステロン濃度を見比べてみると、 2003年から2005年の3年間では6月後半から7月前半にかけての間に排卵しているのがわかるので、 2006年も同様の時期に排卵が見られると思っていましたが、なかなか排卵がみられません。今年は排卵時期が遅れているのかもしれません。 9月以降に排卵がみられ、何回かプロゲステロン値の上昇・下降がみられたのち、12月頃には排卵が終わり、低い値が続くのかもしれません。

一方、「キャンディー」は、2004年と2005年のグラフをみると、春と秋に排卵しているのかなと思いますが、 2006年の冬から春にかけて採取ができなかったことや、採取間隔が空いているため、どうなのかよくわかりません。 もしかしたら、季節に関わらず高い値がみられて、年周期性はないのかもしれません。

2頭のグラフを見比べると、同じプール、同じ環境にいても、血中プロゲステロン濃度はシンクロしないこともわかりました。
今後は血中プロゲステロン濃度の変化が、単なる排卵周期を示すものなのか、あるいは、排卵→受胎→流産の可能性を示すものなのかを区別していければ良いと思われます。


採血

採尿

膣粘液採取


雄のカマイルカの性ホルモン周年変化についての知見

2005年1月
展示課    新田 誠


新潟市水族館では、雄のカマイルカLagenorhynchus obliquidens(体長220㎝、体重117㎏、飼育年数4年) の性ホルモン周年変化を把握する目的で、血液中のテストステロン値の測定を定期的に実施している。 血液中の性ホルモン濃度は、血漿を分析することにより得ることが出来るため、血液の採取が必要となる。 血液は、イルカをプールデッキと平行に仰向けに浮かせて静止させる、ハズバンドリーと称される行動を、 オペラント条件付けにより強化後、尾鰭の血管から注射針を用いて採取した。 採取した血液は、抗凝固剤(ヘパリン)を少量加えた後、遠心分離により有形成分と無形成分とに分離した。 分離後、無形成分である血漿を0.5ml採取し、 生化学分析機関である新潟臨床検査センターへテストステロン値の測定を依頼した。 テストステロン値測定を目的とした血液の採取は、2002年から定期的に行い、 テストステロン値の上昇が見られない時期では月に1~2回程度、 上昇が確認された後は、週に1回程度の間隔で実施した。 その結果、2003年に12検体、2004年に25検体の標本を得た。

  テストステロン値の変動範囲は2003年が29~1158ng/dl、2004年が35~4700ng/dlであった。 2003年では、6月6日に234ng/dlへの上昇が見られ、7月23日に1158ng/dlで最大となり、9月24日に106ng/dlまで下降した。  2004年では、5月11日に114ng/dlへの上昇が見られ、7月23日に4700ng/dlで最大となり、9月24日に99ng/dlまで下降した。 2003年、2004年ともに、若干のずれは見られたが、5月頃に上昇が見られ7月に最大になり、 9月に下降する傾向が見られた。 10月から翌年の4月までは、2003年2月24日の165ng/dlを除くと、29~99ng/dlの範囲で低い値で推移することから、 年周期での発情と認められる性ホルモン値の上昇は1回であり、5月から9月にかけて上昇することが確かめられた。 以上の結果から、飼育下の雄のカマイルカでは、 春から秋にかけて血液中のテストステロン濃度が上昇するという季節性を持つことが示唆された。



カマイルカ(♂)の血液中テストステロンの周年変化



〈引用文献〉
吉岡 基(1990)「内分泌系-繁殖生態との関連」宮崎信之・粕谷俊雄編『海の哺乳類』サイエンティスト社pp.14-22
紺野邦夫(1993)『n系統看護学講座 専門基礎3 生化学』医学書院
笠松不二雄(2000)『クジラの生態』恒星社厚生閣



 用語解説
<ホルモンとは?>
冷水域に生息している鯨類には春から夏にかけて繁殖期があると考えられている。 繁殖期とは、動物が発情に伴い交尾・出産・育児などの繁殖行動を行う時期のことであり、 これには体内で生成されるホルモンhormoneと密接な関係がある。 ホルモンとは、化学物質を直接血液中に送り出す腺組織(内分泌腺endocrine gland)から分泌される物質のことである。 ホルモンは血流に乗って、各ホルモンの作用する特定の器官(標的器官 target organ)に運ばれ、 代謝調節などの生理活性をコントロールする。ホルモンは、次の4つに分けられる。

(1) タンパク質性のもの
(2) ステロイド性のもの
(3) アミノ酸からなるもの
(4) その他、簡単な有機化合物

ホルモンを分泌する内分泌臓器には、下垂体(脳底部のトルコ鞍の陥凹部にあり、 前葉・中葉・後葉の3部からなる。)・甲状腺・上皮小体(副甲状腺)・ 膵臓・副腎髄質・副腎皮質・雌雄の性腺(精巣・卵巣)・松果体・消化管などがある。 下垂体の前葉から分泌されるホルモン(下垂体前葉ホルモン)を、 特定の内分泌腺を刺激してそのホルモンの分泌を促す刺激ホルモン(上位ホルモン)といい、 成長ホルモン・性腺刺激ホルモン・乳腺刺激ホルモン・甲状腺刺激ホルモン・ 副腎皮質刺激ホルモンの5種類が知られている。 これらの中で、繁殖行動を制御し、性ホルモンsex hormoneを刺激するホルモンが性腺刺激ホルモン (ゴナドトロピン gonadotropin)である。 性ホルモンとは、下垂体の性腺刺激ホルモンによって性腺(精巣および卵巣)と 胎盤から分泌されるステロイドホルモンの総称である。 性ホルモンを雄ではアンドロゲン androgenといい、雌では、卵巣からのエストロゲン estrogenと、 排卵後に形成され黄体から分泌されるゲスターゲン gestagenとに分けられる。性ホルモンの分泌は、 下垂体前葉から分泌される黄体形成ホルモン luteinizing hormoneによって調整を受けている。
黄体形成ホルモンとは、間質細胞に作用するホルモンで、性ホルモンの分泌を促す。 雌では濾胞の黄体化と排卵の促進が起こり、雄では精巣の間質細胞に作用してテストステロンtestosteroneの合成 を促進する。
テストステロンとは、精巣から分泌されるアンドロゲンの代表的なステロイドであり、 他にアンドロステンジオン・デヒドロエピアンドロステロンなどがある。アンドロゲンを分泌する精巣は、 多数の小葉組織からなっており、精細管と間質組織がある。精細管は精子を形成し、 間質組織の間質細胞はアンドロゲンを生成する。アンドロゲンには次のような作用や特徴がある。
(1)性的機能の発達促進:胎生期の性分化、生後の精子形成、精巣上体(副睾丸)・輸精管・前立腺・精嚢・陰茎 などの発育および機能の促進。
(2)タンパク質の合成促進。
性成熟個体では、発情に伴い血液中のテストステロンの合成が促進されることが予想されることから、 テストステロン値を測定することにより、雄の発情期を推定することが可能となる。


ハンドウイルカの尿性状

2009年1月
展示課    新田 誠


海洋哺乳動物の生物学的試料の採取並びに検査は,海洋という特殊な環境に進出した哺乳類の高浸透圧環境への適応進化の解明に役立ち,飼育下の動物の生理学研究や健康管理に有用です。しかし,水中生活に適応したクジラ目の場合,身体の拘束による試料の採取や病気の治療には危険が伴い,必ず必要とする試料が得られるとは限りません。新潟市水族館マリンピア日本海では,飼育下,クジラ目に,正の強化を用いたオペラント条件付けを応用し,身体的拘束をすることなく,身体検査や治療,さらには生物学的試料の採取を安全に実施するための行動形成を行っています.行動形成による生物学的試料の採取は,トレーナーと動物の双方に危険が及ぶことを極力回避でき,また,採取手続きに掛かる人手や時間が簡略化されることから,継続的な試料採取が可能となります。

本研究の対象とした尿は,非侵害的に得ることができ,比較的容易に病気の種類や程度・活動性などを知ることができます。
当館では,尿検査を飼育動物の生理値の解明および健康診断の指標とする目的で,飼育下クジラ目の尿を週1回の頻度で定期的に採取してきました。

約1年間の尿を採取し検査した結果,メスのハンドウイルカ5頭(個体C:飼育年数15年,K・Y:13年,R・A:3年)の尿性状について,若干の知見が得られました。



採尿期間は、個体C,K,Yが,2001年12月6日~2002年11月27日までの約1年間,個体R,Aは,2002年5月15日~11月27日までの約半年間であり,201検体の尿サンプルが得られました。

採尿方法は,①腹部をトレーナー側に向けてステージに上げ,自発的な排尿を待ちます。②体側に付着した海水の混入を防ぐため,生殖溝
付近の海水をタオルで拭き取ります。③生殖溝付近を観察し,排尿を視認します。④排尿後,すぐさま用意していた容器で採取します。





排尿までに要した時間は,最短で1分,最長で50分です。5~10分が最も多く,中央値は10分でした。



検査項目は,物理的検査,化学的検査,沈渣の鏡検,非電解質および電解質濃度の大きく分けて,4つの項目であり,計19項目について測定を行いました。
尿の色調は,201検体すべて淡黄色でしたが,検体ごとに若干の濃淡のあることが確認されました。



採尿量の測定には,メスシリンダーを使用し,尿比重の測定には,尿検査用の尿比重屈折計(ユリコンJE,アタゴ社)を使用しました。
物理的検査の結果,尿比重の範囲は,1.027~1.062でした。採尿量は,すべての尿の採取はできませんが,最大で160mlでした。



化学的検査の結果,pHの範囲は,5.0~7.5,ウロビリノーゲン,±~+タンパク,-~+糖-ビリルビン,-~±,潜血,-~++でした。
ウロビリノーゲン~潜血については,異常値も得られたため,個体ごとの出現率を調査した結果,タンパクと潜血に異常値の出現が比較的多く見られ,個体Cと個体Yに潜血反応が頻繁に見られました。



沈渣を鏡検した結果,赤血球と上皮が通常より多く見られた検体がありました。通常,赤血球,白血球,上皮は,400倍1視野で,1未満~2個程度見られます。個体ごとに出現した赤血球,白血球,上皮を4つの区間に区切り,出現率を調べた結果,個体Cで全体の約60%,個体Yで全体の約30%の割合で尿中の赤血球増加が見られ,5個以上が,それぞれ約10%と2%みられました。





非電解質および電解質濃度を測定した結果,尿素窒素の範囲は,844~3123㎎/dl,クレアチニンの範囲は,28.7~192.5㎎/dl,浸透圧の範囲は,844~3123 mOsm/㎏,Naの範囲は,165~620 mEq/l,Kの範囲は,32.5~166 mEq/l,Clの範囲は,205~620 mEq/l,Caの範囲は,0.3~35㎎/dl,Mgの範囲は,2.0~16.5㎎/dl,Pの範囲は,20.1~185㎎/dlでした。





尿比重,尿素窒素,クレアチニン,浸透圧,電解質濃度について,各個体間の平均値の差異を,t検定により検討し検出した結果,有意水準1%で各項目に有意な差が多く見られ,尿の比重,浸透圧,電解質濃度は,各個体によって相違していることが明らかになりました。



尚,個体RとAの関係については,Naを除き,有意な差が認められませんでした。この理由として,飼育年数,体重,餌料内容が類似していることが推測されましたが,詳しい考察には至りませんでした。今後,検体数の増加により判断できるものと思われます。
今回得られた数値と,過去の報告から得られているハンドウイルカの尿性状の,Na,K,Cl,浸透圧について比較した結果,Barnes(1954)の報告による海水の濃度,および,当館の飼育水に比べて若干濃い尿を出していることがわかりました.また,ハンドウイルカについては,Ridgway(1972)およびMalvin and Rayner(1968)の報告と同程度の濃度であるという結果が得られました。



今回得られた生理値を,飼育しているハンドウイルカの尿性状の基準値として用いることにより,腎機能や尿路の病気の発見に役立てていくことが出来ます。ただし,検定の結果で見られたように,各生理値は,個体ごとに差異があり,また,これらは,餌料内容や飼育環境により変化することも考えられます。個体ごとにデータを蓄積していくことが望ましいと思われます。
今後も,定期的な尿の採取を継続し,物理的検査,化学的検査で病気の有無を判断すると共に,必要に応じて沈渣の鏡検や,電解質濃度と血液性化学検査を併用するなどの検査を実施していきたいと考えています。


マスメディアを介した情報発信に教育普及効果はあるか

2019年 第60回 日本動物園水族館教育研究会

石川訓子、大和 淳、岩尾 一、加藤治彦


新潟市水族館マリンピア日本海では、展示生物の情報をマスメディアへ発信する際、教育普及目的から、種についての生物学的な情報を提供するようにを心がけている。しかし情報提供の教育普及効果をこれまで検証してこなかった。今回、試行的ではあるが、検証を試みたので報告する。なお検証は正答率を調査するものではなく、解答の選択に注目した。

当館では1990年の開館以来初めて2019年7月29日にカマイルカが出産し、同年8月29日より一般公開を行っている。プレスリリースは、5月13日(妊娠とイルカショー中止の予定)、7月30日(出産とショー中止継続)、8月1日(ショー再開)、8月7日(母仔の報道機関先行公開)、8月26日(一般公開)と計5回行い、多くのメディアで取り上げられた。また地元テレビ局により妊娠・出産準備・分娩・育児と一連を収録した密着番組が8月16日に放送された。

調査期間は9月7•8日の2日間、カマイルカの親仔を観察した来館者を対象とした。調査はアンケート形式で、調査項目は、出産に関する事前情報の有無、情報入手先、生物学的なクイズとした。クイズの設問は、視覚的情報3問(②分娩方法・③背びれ・⑤色)と非視覚的情報2問(①妊娠期間・④生存率)計5問を3択とした。

アンケートは151人から回答を得た。回答者の78.8%がカマイルカの出産を来館前から認知しており、そのうち58%が情報入手先をマスメディアとしていた。回答者をマスメディアからの「情報あり」と「情報なし」の二群に分け、クイズの設問ごとに独立性の検定としてχ検定を行なった。またメディアの情報が解答選択に与えた影響として、選択肢ごとに寄与した割合(「情報あり」の解答割合-「情報なし」の解答割合)/(「情報あり」の解答割合)を求めた。

結果①妊娠期間、②分娩方法、③背びれに関しては、情報の有無にかかわらず期待値以上の偏りが見られ、また正答に寄与した割合は正(21.0%、15.9%、8.4%)であった。一方⑤色に関しては、「情報あり」の方が偏りがなく、正答に寄与した割合は負(-9.4%)であった。④生存率に関しては、「情報あり」にのみに偏りが見られ、解答ア(生存率20%)と解答イ(生存率50%)に寄与した割合が正(7.82%、5.69%)となり、解答ウ(生存率80%)は寄与したら割合が低く(-40.47%)なったことから、情報を得ていた方に「生存率は高くない」という印象として伝わっていると推察された。

マスメディアの教育普及効果は、ある程度期待できるが、数値のような正確な情報を伝えるのは難しい。ただ今回のアンケートは、回答者が来館者という時点でバイアスがかかっている可能性が高く、一般を反映しているとは言い難い。設問と合わせて調査方法の検討も必要である。


人工育成したアカムツの親魚養成技術開発への取り組み

2019年 第64回水族館技術者研究会


 新田誠 1), 八木佑太 2), 石澤佑紀 1)
1) 新潟市水族館 展示課  2) 水産研究・教育機構 水産資源研究所 


新潟市水族館では,アカムツの飼育展示を維持するために人工育成を実施している.人工育成の課題は受精卵の確保であり,採卵・採精用親魚を安定的に確保するための親魚養成技術の開発が必要不可欠である.本種の天然海域での成熟年齢が雄3歳,雌4歳であることから,2014年に卵から育成した3-4歳魚を対象に,親魚養成を目的とした成熟検査を実施した.水量3m3,水温12.8±1.2℃,照明なしの飼育条件(2017年10月-2018年9月)で成育した人工育成魚93尾(3歳8ヶ月-4歳)を対象とし,生物精密測定(雌雄の判定,全長,体長の測定および体重,生殖腺重量の秤量)を行い,生殖腺重量指数(GSI)を算出した.性別は雄72尾,雌6尾,不明15尾で,性比が雄に偏る傾向がみられたため,本研究では,雄の成熟度の検証に重点を置いて実施することとし,人工育成した雄個体の精子性状,および天然雌個体との受精能力に関する検査を行った.搾出法で得た6尾(4歳齢,飼育条件:水量3m3,水温12.8±1.2℃,照明なし)の精子性状は,精子数21.1×108-132.8×108/ml,活性1以下-60%,pH6.8-7.2であった.2018年9月に,天然雌との人工授精を計6回実施した結果,浮上卵率は3-91%,浮上卵数に対する孵化率は0-20%の範囲にあり,GSI0.22以上で受精能力を有することが確かめられた.精密測定した93尾(全長115-307㎜(185.5±26.3),体長94-253㎜(150.5±22.0),体重22.7-391.8g(99.7±46.6))のうち,雄72尾のGSIは0.10-2.35で,73.6%が成熟と考えられるGSI0.22以上であった.雌6尾のGSIは0.16-1.62で,天然の成熟雌のGSI8.21-19.41(N=19)と比べて未熟であったため,同じ飼育条件では成熟しないと判断された.雌の成熟度の検証には人工育成した雌個体が必要であり,今後の親魚養成技術開発の進展には,雌を育成するための条件を解明する必要がある.


新潟市近郊の陸水環境を模した「にいがたフィールド」とその活用について

2018年 第63回水族館技術者研究会

展示課 平山結,田村広野 管理課 石川訓子, 大和淳


 1990年に誕生した新潟市水族館マリンピア日本海は, 老朽化及び耐震対策, バリアフリー化, 新たな魅力の付加を目的に, 2013年にリニューアル工事を実施し, 屋外に「にいがたフィールド」を設置した. その概要と活用を紹介する. 「にいがたフィールド」はある種のビオトープで, 築山・里域の水辺環境・芝生広場から構成される敷地面積3400㎡のゾーンである. 里域の水辺環境として, 地面を掘削して遮水シートを埋設し, 小川・ため池・たんぼ・わき水・砂丘湖の5つの環境を模した. 総水量は100㎥で最大水深は90㎝である. 各水域は小川でつながり, 水道水を中和した飼育水と井戸水を供給し, ポンプ循環を施している. 水温は, 井戸水の供給点である湧水では年間を通して14℃前後と一定であり, その他の場所では気温の影響を受け変動している. 「にいがたフィールド」は新潟市近郊の陸水環境を模し,  水生植物ではアサザやトチカガミなど, 魚類ではシナイモツゴやホトケドジョウ, トミヨ属淡水型など, レッドリスト選定種を含めた在来種を半自然的な環境で成育させている. これらの種の一部は自然に繁殖, 定着し, 生息域外保全にも資されている. また, 学習機会を提供するため, 3月から11月までの月1回, 各エリアを職員が解説しながら案内するガイドツアーを実施している. ツアーは10名につき1名のスタッフが対応し, 多くの質問を受けるなど参加者の反応はよい. ユニークな体験として, 同一の20名を対象に6月から11月までの期間に, 田植え・稲刈り・脱穀・わら細工の一連の流れを体験してもらい, 「米どころ」新潟の水域文化の一部である農業や伝統について伝えている. 普段できない体験ができてよかったなどの感想が多く, 参加者の満足度は高い. 「にいがたフィールド」には導入生物以外の昆虫や鳥類なども来訪し, 一部は定着するなど多様化も増している. 今後も, 健全な展示環境を維持し, 希少生物の保全及び教育普及を推進していきたい.


アカイサキの産卵行動と仔魚の形態

2018年 第63回水族館技術者研究会

展示課 新田誠

アカイサキ Caprodon schlegelii(ハタ科ハナダイ亜科アカイサキ属)は,水深40~300mに生息する深海性の種である.当館で飼育中の個体が水槽内で産卵したため,産卵行動と仔魚の形態の記録をおこなった.最初の産卵は2016年9月13日に,水温約14℃,水量2.5m3の水槽で確認された.産卵行動を4回観察した結果,親魚は雄1尾,雌2尾で,雄が雌を水面に誘導後,水面で放精,放卵するのを確認した.産卵時刻は6時40分~8時50分,1尾の産卵は1日1回であったが,同日に2尾の雌による産卵も確認された.産卵は2017年2月27日まで継続し,計37回行われた.卵は,水量30Lの水槽で,水温19.0~24.6℃でふ化まで管理し,仔魚は,水量500Lの水槽で,水温19.2~25.8℃,栄養強化したS型ワムシを給餌して育成した.浮上卵を回収して計数した結果,1日の産卵数は1,160~54,230粒,受精率は4~93%であった.卵径は0.89±0.01㎜(n=10),真球形の無色透明の分離浮性卵で,0.19㎜の大油球1個が確認された.ふ化は,受精23時間後に開始され,ふ化数は0~14,790尾、ふ化率は0~100%であった.ふ化直後の全長は1.88±0.17㎜(n=7)で,膜鰭を呈し,眼の黒化は見られず,口と肛門は未開口であった.黄色素胞が体側背面と腹面に各1個,黒色素胞が背面に5個,腹面に4個見られた.3日齢で口と肛門が開口した.18日齢で腹鰭の原基が形成され,24日齢で腹鰭に鰭条が形成された.育成は,最長で28日齢までであった.仔魚の形態では,腹鰭の発達が早く,膜鰭分化前に鰭条が形成されるのを確認した.しかし,ハタ科に特徴的な腹鰭鰭条の伸長は見られなかった.育成では,天然海域の標本と比べ,体長に対する器官形成が遅れていたため,死亡原因を成長不良と推測した.成長不良は育成水温に起因する事例が知られるため,適性水温の解明が今後の課題となった.

人工授精によるアカムツの育成

2017年 東京大学大気海洋研究所共同利用研究集会

新田誠(新潟市水族館マリンピア日本海)
八木佑太(国立研究開発法人水産研究・教育機構日本海区水産研究所)
飯田直樹(富山県水産漁港課)




アカムツはノドグロとも呼ばれるいわゆる「高級魚」で、日本海側の地域での知名度が高い。新潟市水族館では、本種への来館者の関心が高いことから、地域の自然を紹介する上で重要な魚種と位置付け、生体入手を試みてきた。しかし、生息深度が200m前後であることや生息海域が特定できないことなどが障壁となり、展示は困難な状況にあった。
新潟市水族館では、2008年にアカムツの地域漁獲調査を行い、底びき網と刺し網漁への乗船機会を得て、生体展示を目的とした採集を開始した。しかし、底びき網では、袋網の中で長時間圧迫されることが致命傷となり生体確保には至らず、刺し網では、圧迫によるダメージを受けにくいことで生体確保および水族館までの輸送は可能であったが、減圧症や擦過傷が酷く、長期飼育ができなかった。また、本種は採集後の餌付けが難しく、飼育時に栄養不足に陥りやすいという難題もあった。採集の過程で、新潟県寺泊海域で9月以降に漁獲された個体が性成熟していることを発見し、2010年からは、育成による生体展示へと方針転換し、人工授精の実施に至った。
親魚は、9月中旬に刺し網によって漁獲された個体で、漁獲後、すぐに約13℃に冷却した水槽に入れて生存させた。搾出法で採卵・採精を実施し、乾導法による受精を試みた結果、受精卵の入手に成功した。仔魚の育成では、最長で20日齢までの生存に留まった。2013年からは、展示のほか、資源管理への応用も含めた共同研究として、新潟市水族館、国立研究開発法人水産研究・教育機構日本海区水産研究所(以下、日水研)、富山県農林水産総合技術センター水産研究所(以下、富山水研)の3機関で育成技術開発に取り組んだ。共同研究では2012年までの斃死の原因究明を行い、仔魚期の育成水温についての検討をした。天然海域での調査を実施し、仔魚の出現状況や産卵盛期(9月)における水温の鉛直構造を分析した結果、22~23℃が適していることを解明した。育成の過程で、浮上による大量死など難題も生じたが、技術の改善により約200尾を稚魚期まで育成させることに成功し、2014年からは国内初となる1歳齢の育成個体100尾の展示を開始することができた。2016年には2~3歳魚約700尾の常設展示が実現し、地域性の高い生物を通じた自然・環境教育という、目的にかなう展示が可能となった。
育成技術は生物特性の解明や資源管理にも応用され、2013年には日水研による耳石の日齢解析、2016年には富山水研による6カ月齢魚の放流試験が行われた。また、2017年9月には、育成個体約70尾が成熟年齢の4歳に達したのを機に、繁殖習性解明と第2世代育成への取り組みを開始した。


クロベンケイガニの飼育下繁殖について ~アカテガニとの種間比較~

2017年 北海道・関東東北ブロック水族館技術者研究会

展示課 原田 彩知子



クロベンケイガニ Chiromantes dehaani は十脚目ベンケイガニ科アカテガニ属に分類される陸生のカニで,太平洋側は宮城県以南,日本海側は青森県以南,南西諸島,台湾,中国,韓国に分布する.本種のゾエア幼生から稚ガニにいたる飼育知見は少ない.飼育下繁殖による育成記録を報告する.また,近縁種のアカテガニとの比較も行う.
親個体は2015年6月21日に阿賀野川河口域で採集した.同年10月3日にアクリル水槽に,オス1個体とメス3個体を収容し,展示した.室温25 ℃,餌は冷凍アカムシ,冷凍アルテミア,エビカニ用配合飼料を週5回の頻度で与えた.2016年2月7日に抱卵を確認し,幼生放出前に海水を4 L入れたポリプロピレン製水槽へ移動した.2月24日に放出されたゾエア幼生を発見し,クレーゼル水槽へ収容した.止水下で弱く通気を行った.毎日1/3換水を行い,ワムシと冷凍緑藻類を与えた.メガロパ期で海から河口へ遡上することから,メガロパ幼生を確認後は9日かけて1/4海水まで希釈した.餌は上記に加えて栄養強化したアルテミアノープリウス幼生も与えた.着底後のメガロパ幼生は,1/4海水を2 L入れた円形のガラス製容器に移動し,餌は冷凍コペポーダに変更した.稚ガニには冷凍コペポーダ,冷凍アルテミア,エビカニ用配合飼料を与えた.
クロベンケイガニの抱卵期間は13~16日,アカテガニ19~28日であり,25 ℃設定下では年中抱卵した.クロベンケイガニの脱皮は水温24.0~26.0 ℃下にて約3日間隔で観察され,アカテガニは約4日間隔だった.メガロパ幼生は13日齢,稚ガニは23日齢から見られはじめ,アカテガニ (メガロパ期17日齢,稚ガニ28日齢から) に比べて早く変態に至った.アカテガニは513日齢から繁殖を確認した。今後は同条件におけるクロベンケイガニの繁殖開始齢を確認したい.


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