調査・研究

ウミガラスの人工育雛の一例

2023年 JAA 第4回水族館研究会

展示課 平山結,岩尾一,前田綾子,川口顕良多,山田篤

 ウミガラスUria aalgeはチドリ目ウミスズメ科に属する海鳥で,北半球の亜寒帯の海に分布する.繁殖期は5~8月で集団繁殖し,巣は作らず,岩の上などに直接産卵する.平均抱卵日数は33日で,雛は生後約22日で営巣地から水上に飛び降りて巣立ち,しばらくは海上で親の世話を受ける.当館では,2021年3月に葛西臨海水族園から5羽を導入し,飼育を開始した.2023年6月12日に産卵があった.産卵から3日目に卵が2回水中に落下したため,人工孵化に移行した.卵は温度37.4℃に設定した自動転卵装置付き小型孵卵器(昭和フランキ社,ベビーB型)に収容し,放冷を1日2回各回5分間実施した.孵化後は,親が育雛しないと判断したため,人工育雛を実施した.国内のウミガラスの人工孵化・人工育雛技術は葛西臨海水族園によりほぼ確立されていて,給餌量,体重増加の目標,飼料は葛西臨海水族園,ふくしま海洋科学館の過去のデータを参考にした.1日齢から,プラスチック製コンテナ(W65 cm×D45 cm×H32 cm)に保温電球を設置した自作の育雛箱に雛を収容した.巣立ちまでに,育雛温度を展示水槽と同じにするために,1~8日齢までは育雛箱をバックヤードに置き30℃から25℃まで下げ,9~39日齢まではウミガラス予備水槽陸場に移動し25℃から20℃まで下げた.餌は,1~16日齢まではワカサギとマイワシ,17~19日齢まではワカサギとマイワシに加えてイカナゴ切り身,20日齢から巣立ちまではワカサギとマイワシ切り身を, 7時30分から19時30分までの間に3-4回手差しと置き餌で与えた.2日齢よりビタミン剤(Mazuri® 5TLC)をビタミンE 50-100 IU/kg(餌重量)となるように毎日与え,21日齢よりカルシウム不足予防のため,炭酸カルシウムを1日あたり62.5 mg与えた.雛の体重は各給餌前に計測した.育雛16日目から,増体率(%)=(当日の初回給餌前の体重(g)-前日の初回給餌前の体重(g))÷(前日の初回給餌前の体重(g))×100,同化率(%)=(当日の初回給餌前の体重(g)-前日の初回給餌前の体重(g))÷(前日の総摂餌量(g))×100を毎日算出した.産卵35日目で孵化し,育雛期間は39日間であった.体重は,孵化時の65 gから,巣立ち時(39日齢)の344 gまで増加した.イカナゴを17日齢~19日齢まで給餌すると,便性状の悪化,吐き戻し,活性の低下,増体率・同化率の低下があった.野生下の雛が摂取するイカナゴは全長10~13 cmのサイズが主体と報告されている.今回使用したイカナゴはそれより大きかったため,消化不良を起こしたと思われる.増体率・同化率を求めることで,イカナゴ給餌時の消化不良に早期に気づき,対応することができた.人工育雛では,雛の状態観察とともに,増体率・同化率を求めることが重要であると思われる.


カマイルカの飼育下繁殖4例における出生時の対応と成長の比較

2023年 JAZA 第49回海獣技術者研究会

展示課 渡邉拓也,岩尾一,松本輝代,小川みはる,石田茉帆,石川訓子

 新潟市水族館マリンピア日本海では,2019年から2022年の4年間に,カマイルカLagenorhynchus obliquidensの繁殖が毎年1例ずつ,計4頭の出産があった.本種の出生後早期の成長に関する情報は少ないため,4例の繁殖時の対応,および出生個体の成長について比較した.4例ともに出産施設は,略長方形(長辺14m,短辺7.5m,水深2.7-3m,水量300㎥)の屋内展示水槽で,出産予定日の2ヵ月程前に集水枡や吐水口,はしご等の水中構造物にトリカルネットとポリ塩化ビニル管で作製したガードを設置した.母獣に対しては,出産から育子に亘る過程で,飼育者の補助的な介入や,環境の変化等の新奇刺激に対する不適切な反応を回避する目的で,子獣が壁に衝突することを防ぐための専用の棒とフィンを持った飼育者の動きに対する脱感作,子獣に対する母獣の誘導を妨げないように投餌による給餌のトレーニングを行った.体温が低下した日からは単独飼育とし,24時間観察を行った.出産時の4例のデータ(出産日,分娩時間,性別,体長)は,No.1(2019年7月29日,46分,雄,104cm),No.2(2020年8月4日,2時間13分,雄,95cm), No.3(2021年7月13日,1時間56分,雌,93cm),No.4(2022年8月9日,3時間18分,雌,103cm)であった.出産直後は子獣の遊泳が安定するまで,飼育者が専用の棒とフィンを用いて壁への衝突防止対応を2-7時間行った.初授乳は13時間30分-17時間後に確認され,自発摂餌は32-88日齢から始まった.母子の状態に即応するために,24時間観察は11-21日間継続した.子獣の体長は並泳する母獣の実測値から算出した概算で,365日齢での体長は,No.1,190cm,No.2,171cm,No.3,171cm,No.4,183cmであり,2023年9月25日現在も4頭ともに生存している.授乳時間と回数,子獣の摂餌量等の比較と行動観察を綿密に行うことは,生後1年以上の生存に有益であると考えられる.


座礁したカマイルカの保護と放流

2023年 JAZA 第49回海獣技術者研究会

展示課 石田茉帆,岩尾一,石川訓子

 2023年2月14日,新潟市西区五十嵐浜に座礁したカマイルカLagenorhynchus obliquidens(雄,体長185cm,体重85kg)を保護した.屋内に設置した円形簡易プール(直径366cm,水深76cm,水量8㎥)に収容した.搬入時に大きな外傷はなかったが,血液検査で強い炎症反応,尾部の右屈曲と硬直,姿勢維持の困難が認められたため,24時間体制での介助を8日間実施した.9日目に自発遊泳を期待し,屋内プール(14m×7.5m,水深3m,水量300㎥)に移動したが,遊泳不良から沈降した.再度簡易プールに収容したが姿勢維持が再び困難になり,監視不在の夜間は担架に収容して管理した.11日目より重症肺炎を発症し,摂餌量の減少,削痩が進行したため,29日目より静脈輸液治療を計13日間実施した.最低給餌量を4kgに設定し,それに満たない場合は強制給餌を行った.体位の平衡と浮力維持,自立した遊泳の回復を目的に,32日目から自作した遊泳補助具を装着,34日目から尾部の硬直改善のため,マッサージや尾柄の上下運動の機能訓練などを並行して行ったところ,約10日間で自発的な上下運動が開始された.56日目以降は再度屋内プールに移動し,呼吸,姿勢維持および尾柄の上下運動を確認しながら,段階的に補助具を外した.また,他個体との同居も行い,個体干渉による刺激を与え,75日目には補助具無しでの遊泳が可能となった.高速遊泳やブリーチ,水深3mへの潜水が見られたことから十分に運動能力が回復したと判断し,82日目に長岡市寺泊港2-3km沖で漁業者の協力のもと放流した.座礁個体の保護は,検疫上,飼育個体との隔離を前提とした収容施設の確保が難しく,人的負担も大きいうえ,慎重かつ迅速な対応が必要である.また,外部機関への報告や手続きなど円滑な対応が求められる.本件は座礁個体に対する今後の最適な保護に資する事例となった.


フンボルトペンギン Spheniscus humboldtiにおける胸部気嚢への腸管嵌入例

2022年 第28回日本野生動物医学会大会

獣医師 岩尾一


【序】死亡したフンボルトペンギンSpheniscus humboldtiの解剖時,消化管の一部が胸部気嚢内に嵌入している事例を2個体で経験した.他鳥種を含めて,類似例の報告が見当たらないこともあり,報告する.
【症例及び臨床経過】
(症例個体1)メス,31歳11ヶ月齢.鬱血性心不全で死亡.左胸部気嚢の心臓近くの部分に直径5 mm大の穴が開き,15 cmほどの消化管の一部がループ状に嵌入.漿膜に覆われた1 cm × 2 cm × 0.5 cm大の小判型の黄色および直径 2 .5 cm × 0.5 cm 大の黄灰色の腫瘤物が付着. 気嚢内・外ともに漿膜面での炎症反応はない.嵌入した消化管の気嚢内での癒着はなく気嚢内で遊離.嵌入部での消化管の絞扼はない.痩せ気味だが量を食べない傾向が死亡半年前程度からあった.BCS 2/5.
(症例個体2)メス,34歳11ヶ月齢.鬱血性心不全で死亡.左胸部気嚢の心臓脇から十二指腸の一部が嵌入.嵌入した十二指腸は直径3 cm程度の嚢胞状に漿膜で覆われる.腹腔側の消化管嵌入部は滑らかに漿膜で覆われ,絞扼は起こしていない.嚢胞状物内の十二指腸の漿膜との癒着はない.死亡前の食欲不振などの既往歴はなし.BCS 5/5.
【考察】気嚢内に腸管が嵌入していた2個体とも,生前に顕著な呼吸症状や消化器症状はなく,気嚢病変そのものによる臨床上の不具合はほとんどなかったと思われる.両個体とも消化管嵌入が左胸部気嚢の類似位置から生じており,慢性の心疾患が死因となっていた点が共通していたものの,解剖学的構造,病態生理などから共通の背景要因があったのかは例数が少なく不明である.嵌入のきっかけは,何らかの大きな衝撃が加わった際に気嚢が破損し,腹腔内との連絡が生じた場合,呼吸運動に伴い近接する消化管が入り込むなどが憶測される.症例個体1については消化管以外に卵黄遺残物とそれに対する炎症反応に由来すると思われる腫瘤物も気嚢内に嵌入していたが,腫瘤物が周囲漿膜や消化管との癒着などの炎症反応は見られず,炎症反応による気嚢損傷が消化管嵌入のきっかけになった可能性は否定的であった.症例個体1では消化管嵌入部が開放状態で腹腔内と連絡し,症例個体2では消化管が漿膜で覆われ気嚢内腔と腹腔内は隔離された状態になっていたが,病変形成時から気嚢の漿膜の二次再生までの時間経過の差を反映しているのかもしれない.


飼育下におけるスズメダイの繁殖

2021年 JAA 第2回水族館研究会

展示課 石澤佑紀,前田綾子

 スズメダイ Chromis notata は,スズキ目スズメダイ科スズメダイ属に分類される魚類で,太平洋側では千葉県以南,日本海側では秋田県以南,朝鮮半島東岸・南岸,台湾などに広く分布する.本種は,転石や岩の側面に付着卵を産み,雄が保育する.当館の水槽(水温21℃,水量800㎥)で擬岩や転石を産卵床とした自然産卵が確認されたため,本種の受精卵を回収して育成を試みた.本種の繁殖生態,受精卵と卵内発生については,田中(1989)による報告があるため,本研究では,育成のみを記録した.
 受精卵は,2021 年10 月12 日に直径約16cm の転石の底面に確認した.2 日後に発眼が見られため孵化直前と判断し,産卵床ごと取り上げた.移動用に収容したバケツ(水量10L)内で約2,500尾がふ化した.ふ化仔魚は,育成水槽として用意した円形の透明ポリカーボネート製水槽(水量500L)へ収容した.育成水槽では飼育水は循環させ、水温は500W ヒーター1 本を投入して約25℃に設定した.照明は30W 蛍光灯1 本を設置して24 時間点灯した.尚,稚魚期以降は,夜間は消灯した.孵化後0-21 日齢まで栄養強化(SCP:クロレラ工業)したS 型ワムシを10 個体/ml の量で給餌し,ワムシ給餌の期間は,冷蔵ナンノクロロプシス(ヤンマリンK-1:クロレラ工業)を40ml/日添加した.15 日齢からは強化アルテミアを併用給餌した.30 日齢からは冷凍コペポーダを中心に,配合餌料(アンブローズ400:フィードワン)を併用給餌した.
 孵化から2 時間後の仔魚は全長2.48±0.03 ㎜(n=3)で,開口はまだ無く,黒色素胞が前頭部や腹部など,黄色素胞は卵黄上部や尾部腹面などに見られた.2 日齢では全長2.88±0.02 ㎜(n=3)で,下顎が形成され開口を確認し,卵黄はほとんど吸収された.5 日齢では全長3.30 ㎜(n=1)で,黄色素胞は見られなくなった.13 日齢では全長4.3 ㎜(n=1)で,黒色素胞が頭部や腹部側面に見られた.17 日齢で生存個体が約20 個体となったため,以降の記録は生体観察とした.29 日齢で最初の個体が着底した.全長約5.5 ㎜であった.34 日齢では全長約8 ㎜で,体色は全身黒色を呈し,背鰭や尾部に黒色の帯状の模様,背鰭後方基部に白色斑点が認められた.この時点で生存個体は7 個体となった.59 日齢には全長約160.5 ㎜に成長し,以前よりも模様は明確に現われ,成魚と同様の体色を示した. 87 日齢では全長約170 ㎜で,6 個体となった.


カマイルカの出産に備えたトレーニング

2021年 JAA 第2回トレーニングセミナー

展示課 石川訓子

飼育下動物の妊娠から出産・育仔に渡る過程では,通常と異なりその時々に応じて飼育者の補助的な介入や環境の変化を与えることが通例である.飼育者にとっては予測可能な事態への対応策であっても,母獣にとっては新奇刺激であることは少なくない.新潟市水族館マリンピア日本海では,2019年から2021年の3年間にカマイルカLagenorhynchus obliquidensが毎年1頭ずつ繁殖し,現在誕生した3頭を育成中である.この3例において,母獣に対して実施した新奇刺激に対する不適切な反応を回避するためのトレーニングを3点紹介する.
1.    仔獣が壁に衝突することを回避するためのトレーニング
分娩直後から6〜7時間はトレーナーが専用の棒またはフィンで,壁に向かってくる仔獣を衝突させないように誘導する必要がある.そこで母獣には分娩時の人員配置でプールサイドに立つトレーナーと,使用する道具および動きに対して脱感作する.
2.    投餌と遊泳方向の変更や定位のトレーニング
出産後摂餌要求が上がっている母獣はトレーナーの前に定位しがちである.出産後2日程度は定位させず,母獣には仔獣の誘導を妨げないように短時間で摂餌できるよう,普段よりも大きな餌を投餌している.定位させる時は,仔獣がプールの内側になるよう母獣の遊泳方向を変更し,ステージと平行に泳いで来た時のみとし,母獣の水流に乗っている仔獣が壁に衝突する危険を避けるようにしている.このように,大きな餌の投餌による摂餌と遊泳方向の変更や定位までの動きをあらかじめトレーニングしておく.
3.    夜間給餌
夜間の照明には出産予定日の1か月前から馴致する.夜間給餌は24時間観察開始と同時に始める.1日の給餌量は変えず1回あたりの給餌量を少なくし,2〜3時間間隔で10回程度の給餌を行う.これにより昼夜を問わず体温測定や破水時の直接観察が可能となる.また出産後急激に増加する摂餌要求には,母獣の消化器系への負担を軽減する観点から,1回あたりの給餌量を2kg程度に抑えて対応することができる.
この他にも出産前の母獣に対し,想定できる新奇刺激に馴致しておくことは,繁殖成功に繋がる重要事項と考えている.


生後6日目から開始したカマイルカ親子の移動トレーニング

2021年 JAZA 第47回海獣技術者研究会

展示課 安藤みはる,松本輝代,渡邉拓也,石田茉帆,古屋怜菜,伊敷夏海,鈴木幸誠,石川訓子

 マリンピア日本海では,カマイルカLagenorhynchus obliquidensの3例の繁殖個体(出生年月日:2019年7月29日,2020年8月4日,2021年7月13日)に,それぞれプール間移動トレーニングを実施した.施設はA,B,C,D(順に水量360㎥,25㎥,125㎥,800㎥)の4つのプールが1列に並び,各プール間はゲートのついた水路でつながっている.母獣は3例とも異なり,出産はAで母獣単独で行った.1例目は生後26日目,2例目は生後15日目に親子でBまでの移動を試みたが,母獣がゲートを通過しても子獣がゲート前で引き返したため移動はさせられなかった.そのため2例とも子獣が生後半年以上経過した頃に網を用いてプールを狭め,ダイバーが補助しながらゲートの通過を繰り返し,Cまでの移動が可能となった.しかし,網を用いた手法は子獣が網や壁面に突進するなど危険な場面もみられた.そこで3例目は親子がほぼ離れずに遊泳している生後6日目に移動を試みた.子獣の単独遊泳が安定せず,壁面衝突の懸念があったため,狭いBではなくCまでの移動を目標とした.母獣に移動サインをだすと,子獣を連れてCまで移動した.母獣に対して定位は求めず,子獣との遊泳を止めないよう投餌で強化を行ったところ,3往復目にはスムーズな移動が行えるようになった.その後,毎日1セッションAからCもしくはBへの移動トレーニングを行っている.子獣がゲート前で引き返す行動が数回あったが,すぐに母獣が引き返して子獣を誘導し,ともにゲートを通過した.2021年9月現在,子獣がゲート前で引き返す行動はなく,BやCで母獣がトレーナーに定位中も子獣は安定した単独遊泳を行っている.トレーニング時以外にゲート開放の時間を設けたところ,スムーズな移動が確認された.本事例は移動時の事故など懸念は残るものの,子獣の安全な移動トレーニング方法の一つとして有効であると考える.


鮮魚を用いたヤナギムシガレイの人工授精

2020年 JAA第1回水族館研究会


 新田誠 1), 八木佑太 2)
1) 新潟市水族館 展示課  2) 水産研究・教育機構 水産資源研究所 


ヤナギムシガレイTanakius kitaharaiは,北海道以南の日本沿岸に分布するカレイ科ヤナギムシガレイ属の魚であり、水深100~400mの砂泥底に生息する.日本海側では高値で取引される重要な水産資源であり,新潟市においては全国に誇る魚として,食の銘産品に指定されている.本種は,主に底びき網により漁獲されるため,親魚の生体での確保が難しい.当館では地域を特徴づける魚として本種の飼育に取り組み,漁獲された鮮魚を用いた人工授精による育成研究で成果を得たので報告する.
本種の産卵期は1~3月であり,2017年2月と3月に,新潟漁協新潟支所に水揚げされた鮮魚を用いて人工授精を実施した.採卵は,メスの腹部を圧迫して採卵する搾出法を用いた.採精は,搾出法では放精しないため,オスから精巣を取り出して細かく刻み,予め作成しておいた人工精漿に浸し,ネットで濾して精液を採取した.受精には乾導法を用いた.受精卵は,天然海域の表層水温と同じ約12℃で管理した.ふ化仔魚の育成は,約15℃で行い,着底後は約11℃とした.
親魚は,漁獲直後に海水に氷を入れた容器に収容し、低温で鮮度保持した状態で港まで輸送した.漁獲から人工授精までは,3時間以上を要した.人工授精は2検体で実施し,受精卵数は,2月が2,200粒(受精率33.4%),3月が200粒(受精率28.6%)であった.卵の管理は水温12.5(±0.48)℃で行ない,受精後5日目にふ化,ふ化仔魚数は2月では1,000個体(ふ化率44.6%),3月では0個体(ふ化率0%)であった.仔魚の育成は,水温14.9(±0.40)℃で行った.ふ化後3日で開口した.開口直後から,SPC(クロレラ工業㈱)で栄養強化したシオミズツボワムシを10個体/mlになるように給餌した.ふ化後23日目で斃死が目立ったが水温を10.9(±0.31)℃にすることで沈静化,ふ化48日目で着底個体が現れ、約200尾が着底した.
本種の天然魚による人工授精に関しては,1998年に新潟県水産海洋研究所で実績があり,受精率17.8%との報告がある.本研究の鮮魚による受精率は、生体による受精率を上回る28.6~33.4%であり,鮮魚による人工授精の有効性が認められた.2020年には,親魚の生息場所と同じ約12℃で鮮魚を輸送し人工授精を行った結果,受精率40~65%(n=2)で,生息深度と同じ水温で鮮魚保持すると,受精率が向上する可能性が示唆された.

ヤナギムシガレイ Tanakius kitaharai

ヤナギムシガレイ Tanakius kitaharai


JAZA水族館部の支援を受けたカマイルカの飼育下繁殖例

2019年 JAZA 第45回海獣技術者研究会

展示課 大越智香,石川訓子,加藤治彦

 2018年8月下旬,カマイルカLagenorhynchus obliquidensの雌1個体(2015年搬入,国内血統登録番号470)の妊娠が血中プロゲステロン濃度の持続的上昇により強く示唆された.本種の繁殖例は少なく,当館に於いては初の事例である.当館の実情に即した出産対応をするため,文献や聞き込みによる情報収集に加え,同じく出産を控えた施設への視察を行い,プール形状の平坦化,飛び出し防止柵の設置,妊娠個体の飼育管理と出産準備,監視体制整備等を整え出産に臨んだ.長辺14m,短辺7.5m,水深2.7-3m,水量300㎥の略長方形の屋内展示水槽を出産施設とし,予定出産日の2ヵ月程前に集水升やゲート表面,ラダーや吐水口等の窪み,アクリル側コーナー部等の水中構造物にトリカルネットとポリ塩化ビニル管で作製したガードを設置した.改造以降は本種雌個体と同居飼育し,体温が低下した出産4日前より単独飼育に変更し,24時間観察を開始した.出産は2019年7月29日で,破水から完全娩出までは46分,胎盤は2回に分けて排出された.初授乳は17時間後に確認した.子獣の遊泳安定までの人為的衝突防止対応は5時間継続し,軽微な擦過傷のみ発生した.子獣はその後5日間で2度,ネットと壁面への衝突があり吻先がやや削れたが大事には至らなかった.9月30日現在も子獣は生存し32日齢より自力摂餌を確認している.初事例であった今回の繁殖において,事前の情報収集,先行施設との連携や視察等は繁殖成功に有益であると考えられた.


繁殖賞受賞実績

繁殖賞トロフィー
繁殖賞トロフィー
JAZA初繁殖認定、繁殖賞は、公益社団法人日本動物園水族館協会(JAZA)加盟の動物園・水族館で飼育している動物で、国内で初めての繁殖に成功したものに授与されます。
技術をたたえ、公開することにより、繁殖技術の向上と希少動物の保存に資することを目的とした賞です。



JAZA初繁殖認定(2020年度~)
国内で初めての繁殖に成功し、動物園水族館の発展に寄与するものに授与されます。
生物名繁殖年月日
スザクサラサエビ2008.10.17
アカムツ2013.9.19
シロウ2015.4.12
エンコウガニ2020.7.17
スズメダイ2021.10.14
トゲトゲツノヤドカリ2022.5.11
クロシマホンヤドカリ2022.7.12





JAZA繁殖賞受賞実績
国内で初めての繁殖に成功し、6ヵ月以上生存した場合に授与されます。

生物名区分繁殖年月日
トウホクサンショウウオ自然1996.3.23
バイカルアザラシ人工2006.4.18
アシナガスジエビ自然2008.9.14
カブトクラゲ自然2010.5.8
コウイカ自然2011.1.20
2011.2.20
Lysmata boggessi自然2012.8.20
アカテガニ自然2014.7.23
ロクセンスズメダイ自然2015.8.25
クロベンケイガニ自然2016.2.24


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