トノサマガエル白化個体の上皮小体機能亢進症の発症と治療

2011年 関東・東北ブロック水族館飼育技術者研究会

展示課 岩尾 一

トノサマガエル白化個体での上小体機能亢進症(Hyperparathyroidism:HPT)発症例の経過を報告する. 上皮小体は体内のカルシウム濃度を制御しているが, 上皮小体の機能が亢進すると, 骨の脱灰が生じ, 骨の脆弱化(代謝性骨疾患), 低カルシウム血症等を生じる. 動物では, カルシウムやビタミンDの摂取不足による栄養性 のHPTが一般的である. 2010年7月9日, 新潟県阿賀野市で発見されたトノサマガエル白化型の幼生11個体が市民より譲渡された.

幼生は, 熱帯魚用飼料用(テトラミン(R))と赤虫で育成し, 同年9月までに8個体が変態・上陸した. 変態後の幼体には, 適当なサイズのイエコオロギに炭酸カルシウムをまぶして給餌した. 同年11月ごろより, 成長遅延, 鼓腸症, 動作緩慢, 食欲不振といった症状が4個体の上陸幼体でみられるようになった. 細菌感染症を疑い, 抗生剤投与(エンロフロキサシン 5mg/L 10分間浸漬 5日間)を行ったものの症状の改善は認められなかった.

その後, 重症例では後肢の痙攣も頻発するようになり, 同年12月中に2個体が死亡した. 死亡個体の剖検では重度の皮下水腫を認めたものの, 感染症を疑う所見は無かった. 各種症状から, HPTを疑い, 診断的治療として, 2011年1月11日よりビタミンD(オスビタン1000(R) 2-3IU/Ml)を添加したグルコン酸カルシウム水溶液中(カルチコール末(R) 2g/L)での飼育に切り替えたところ, 症状が次第に改善したことから, HPTと診断した. 発症から9ヶ月経つ現在, 4匹が生存しているものの, 未だ完治せず, グルコン酸カルシウム水溶液中での飼育を継続している.

また, ほとんどの個体で自発採餌が困難であるため, 強制給餌も継続している. HPTの発症理由としては, 栄養性の原因が最も疑われる. しかし, 今回の発症個体はすべて色彩変異個体であり, 同クラッチ由来と考えられることから, 遺伝的要因の関与も否定できないと考えている.

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