腸管クロストリジウム症を疑ったハンドウイルカの一例

2010年 第36回海獣技術者研究会

展示課 ○岩尾一,山際紀子,鶴巻博之

腸管クロストリジウム症は, クロストリジウム属菌によって引き起こされる消化器疾患の総称である. 鯨類の腸管クロストリジウム症は, 国内では急性の死後判明例のみが報告されており, 主な起因菌は Clostridium perfringens (以下Cp) である(寺沢, 2007). Cpは腸管の常在菌であり, 腸管クロストリジウム症の生前診断は困難である(Marks And Kather, 2006).当館で飼育しているバンドウイルカ Tursiops truncatus での腸管クロストリジウム症の疑い例と, 投薬介入後の経過を報告する。

2009年4月5日(第1病日), 1頭のバンドウイルカ(雌:国内血統登録番号388, 体長298cm, 体重270kg)が早朝, クリーム色の粘稠便を排泄し, 塗沫検査では便中には多数の白血球が出現した.その後, 便の色調は緑褐色から山吹色まで変化し, 便中に散発的にCp様のグラム陽性大型菌や白血球が少数出現(<5個/400倍1視野)するものの, 体温, 行動に異常を認めないため, 経過観察を続けていたが, 第18病日には多数のCp様菌体が出現し(>20個/1000倍1視野), 第20病日には黄色の粘稠便を排泄し, 便中には白血球や赤血球の出現も認めた。

異常便は腸管クロストリジウム症によるものと仮診断し, 第20病日より, メトロニダゾール(以下MZ)(10mg/Kg 1日2回 経口投与)の投与を開始すると, 便性状が正常化したため, MZ投与は第30病日で終了した。しかし, 第42病日に再度, 粘稠便の排泄とCp様菌体の便中出現を認めたため, 再発と判断し, 第52病日までMZを投与した。その後, 現在まで再発を認めていない。

第20病日に採取した便からは, 嫌気培養でCpが7日後に分離同定された。治療期間中を通じて, 体温, 行動, 血液検査での異常は認めなかった。本症例は, 培養同定と塗沫染色の結果, MZへの反応性から, Cpによる腸管クロストリジウム症であったと強く疑われ, 便の顕微鏡検査が診断と治療評価に有効であったと考えられた。

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