研究会発表 抄録集

アカムツの人工授精と仔魚の初期飼育について

2012年 第56回水族館技術者研究会

展示課 ○ 新田 誠

アカムツは,生息深度が深く良好な状態での採集が困難な魚種である.この度,育成個体による展示を目的に,刺し網漁で漁獲されたアカムツで人工授精を行い,仔魚育成を試みた.

親魚は,2010年,2011年の2回,性成熟期間に該当する9月下旬~10月上旬に採集した.2010年は船上で受精卵が得られなかったため,親魚を水温13℃で輸送後,ホルモン剤(HCG:ゴナトロピン)を,雄:50IU/尾(全長197㎜,体重100g),雌:200IU/尾(全長300㎜,体重490g)筋注した.8時間後に採精し検鏡で精子活動を確認,同時刻に採卵した卵(卵径0.9㎜)が完熟卵と確認されたため,乾導法で受精した.海水(23℃)を満たすと,卵が浮上卵と沈降卵に分離し,浮上卵で受精膜を確認した.2011年は,受精は船上で乾導法を実施し,浮上卵を水温23℃で酸素パック輸送した.浮上卵を別容器に移し,少量の海水(23℃)を注水して保管した結果,受精25時間後にふ化を開始した.ふ化直前に沈降卵が増加し,ふ化数は,2010年が21尾,2011年が165尾であった.ふ化1日後の仔魚(全長1.92㎜)は膜鰭を呈し,眼の黒化は見られず,口と肛門は未開口であった.黄色素胞が,眼後方~第7筋節腹面,第12~16筋節背面に見られた.4日後(全長2.97㎜)に肛門の形成と開口を確認し,2010年はL型ワムシ(約250μm)を栄養強化して給餌したが,5日齢に大量死し,生存期間は最長で10日齢であった.6日齢の口径を測定すると200μmであった.生存個体は,ふ化した仔ワムシ(約140μm)を摂餌したと推測され,S型の方がより適していると思われた.2011年は,栄養強化したS型ワムシ(約160μm)を給餌した.初期減耗により,7日後に1個体(全長2.72mm,口径192μm)となったが,解剖でワムシの摂餌を確認した.餌料サイズは判明したが,卵管理改善によるふ化率向上と初期減耗を減少させる飼育条件の解明が今後の課題である.

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トノサマガエル白化個体の上皮小体機能亢進症の発症と治療

2011年 関東・東北ブロック水族館飼育技術者研究会

展示課 岩尾 一

トノサマガエル白化個体での上小体機能亢進症(Hyperparathyroidism:HPT)発症例の経過を報告する. 上皮小体は体内のカルシウム濃度を制御しているが, 上皮小体の機能が亢進すると, 骨の脱灰が生じ, 骨の脆弱化(代謝性骨疾患), 低カルシウム血症等を生じる. 動物では, カルシウムやビタミンDの摂取不足による栄養性 のHPTが一般的である. 2010年7月9日, 新潟県阿賀野市で発見されたトノサマガエル白化型の幼生11個体が市民より譲渡された.

幼生は, 熱帯魚用飼料用(テトラミン(R))と赤虫で育成し, 同年9月までに8個体が変態・上陸した. 変態後の幼体には, 適当なサイズのイエコオロギに炭酸カルシウムをまぶして給餌した. 同年11月ごろより, 成長遅延, 鼓腸症, 動作緩慢, 食欲不振といった症状が4個体の上陸幼体でみられるようになった. 細菌感染症を疑い, 抗生剤投与(エンロフロキサシン 5mg/L 10分間浸漬 5日間)を行ったものの症状の改善は認められなかった.

その後, 重症例では後肢の痙攣も頻発するようになり, 同年12月中に2個体が死亡した. 死亡個体の剖検では重度の皮下水腫を認めたものの, 感染症を疑う所見は無かった. 各種症状から, HPTを疑い, 診断的治療として, 2011年1月11日よりビタミンD(オスビタン1000(R) 2-3IU/Ml)を添加したグルコン酸カルシウム水溶液中(カルチコール末(R) 2g/L)での飼育に切り替えたところ, 症状が次第に改善したことから, HPTと診断した. 発症から9ヶ月経つ現在, 4匹が生存しているものの, 未だ完治せず, グルコン酸カルシウム水溶液中での飼育を継続している.

また, ほとんどの個体で自発採餌が困難であるため, 強制給餌も継続している. HPTの発症理由としては, 栄養性の原因が最も疑われる. しかし, 今回の発症個体はすべて色彩変異個体であり, 同クラッチ由来と考えられることから, 遺伝的要因の関与も否定できないと考えている.

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鯨類における腎機能マーカーとしての尿中N-アセチルβ-D-グルコサミニダーゼの有用性

2011年 第17回日本野生動物医学会

展示課 岩尾 一, 加藤 結, 榊原陽子, 鶴巻博之1, 田原正義, 南雲 綾, 長谷川 泉, 村井扶美佳, 山際紀子

尿中N-アセチルΒ-D-グルコサミニダーゼ(UNAG)活性の上昇は尿細管上皮の傷害を反映し、腎臓の機能異常の早期マーカーとして用いられている。UNAGが鯨類の腎機能マーカーとしても有用か検討するために、腎機能が正常な鯨類(ハンドウイルカ Tursiops truncatus(Tt)雌3頭、カマイルカ Lagenorhynchus obliquidens(Lo)雄1頭)、および、ネフローゼ症候群による慢性腎不全を発症したTt雌1頭より採取した尿のUNAG活性を測定した。UNAG活性を尿中クレアチニンで補正した指数(U/G)で表すと、Tt雌の正常尿で3.1±2.4(平均値±SD)(N=12)であった。Lo雄のUNAGは、尿中精子の出現と一致した上昇が見られ、雄性生殖器由来NAGの混入が疑われた。腎不全のTtのUNAGは、ネフローゼ症候群の発症前9.9だったが、発症後、最大50.2まで上昇し、ステロイド投与により13.6 まで低下し、末期腎不全での死亡時には236.9に再上昇した。UNAG測定は鯨類の腎機能評価に有用と考えられたが、雄個体の結果は慎重に解釈すべきと思われた。

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水族館と環境コミュニケーション

2011年 東京大学大気海洋研究所共同利用研究集会 生物多様性と水族館 研究・展示・啓発活動

管理課 大和 淳

環境コミュニケーションという言葉は比較的新しい言葉である。平成13年版(2001年)の環境白書では、「持続可能な社会の構築に向けて、個人、行政、企業、民間非営利団体といった各主体間のパートナーシップを確立するために、環境負荷や環境保全活動等に関する情報を一方的に提供するだけでなく、利害関係者の意見を聴き、討議することにより、互いの理解と納得を深めていくこと」と定義している。また、1999年にOECDがまとめた「Environmental Communication」では、「環境面からの持続可能性に向けた、政策立案や市民参加、事業実施を効果的に推進するために、計画的かつ戦略的に用いられるコミュニケーションの手法あるいはメディアの活用」と定義している。2006年には国際標準化機構が環境コミュニケーションに関する国際規格化(ISO14063)を発行したこともあり、特に大企業などでは、ステークホルダーとのコミュニケーション活動の1つとして環境コミュニケーションという用語はかなり浸透してきた。水族館も組織である以上、多様なステークホルダーが存在する。来館者はもちろんのこと、設置者や出資者(納税者や株主など)、出入りの業者なども当然ステークホルダーである。よって、現在定義されている「環境コミュニケーション」もそのまま当てはめることができる。

しかし、特に日本では環境コミュニケーションを「企業が行う、ステークホルダーとの環境に関するコミュニケーション活動(CSRの一環)」と矮小化されて理解されているため、市民への広がりが無いことが残念である。「環境」も「コミュニケーション」も非常に深い言葉であるからこそ、現状の「環境コミュニケーション」では、何かもの足りないと考えている。具体的には「環境コミュニケーション」は、これからの「環境教育」の1つの方向性を示しているようにさえ感じている。

本発表では、まず、「企業」という小さな枠に取り込まれてしまった「環境コミュニケーション」を、もっと自由に解釈することを試みる。そして、水族館での活動の中に新たな「環境コミュニケーション」の概念を取り込み、その活動の意味や意義を問い直してみたい。

方法として、当シンポジウムのタイトルにある「生物多様性」「啓発活動」をメインキーワードに、「環境」「自然」「ヒト」「生物」「コミュニケーション」「環境教育」「インタープリテーション」「ESD(持続可能な開発のための教育)」「CEPA(広報・教育・普及啓発)」などのキーワードを検討することで「環境コミュニケーション」について考えたい。そして、その検討を踏まえ、水族館での環境コミュニケーションとはどのようなものか、また実際に行っている水族館での活動(環境コミュニケーションと意識しているかどうかは別として)について考える事とする。

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カマイルカの精液中精子数の年変動

2011年 第37回海獣技術者研究会

展示課 加藤治彦,○鶴巻博之,田原正義,村井扶美佳,加藤 結
山際紀子,長谷川泉,榊原陽子,南雲 綾

鯨目の繁殖生理研究の一環としてカマイルカ Lagenorhynchus obliquidens(2001年1月29日野生捕獲,雄,体長220cm,体重120㎏)の精液中精子数を計測したところ年周期性が見られたので報告する.

2010年1月から2011年8月の20か月に渡り,1から4日に1回の頻度で採精し,合計451検体の精液を採取した.採精は上陸横臥姿勢(=サイドランディング(平野他,1999))と生殖溝への接触刺激での陰茎露出,それに後続する射精を条件付け,噴出された精液を採取した.採取された精液の一部をスライドガラスに分取し,光学顕微鏡を用いて1視野400倍(HPF),10視野の精子数を数え,平均数を精液中精子数とした.

精液中精子数の変動範囲は2010年が0-27280(平均368,標準偏差2105,標本数264),2011年が0-22624(平均681,標準偏差2807,標本数187)であった.精子は周年出現し,2010年では6月中旬から10月上旬に,2011年では6月中旬から8月下旬に1000<の高濃度となった.

一方,同時期に測定した(2010年1月27日-2011年8月24日,N=31)血液中テストステロン値の変動は2003年,2004年より得られた報告(新田他,2005)と同様,春から秋に増加する季節性を示した.対象個体においては,5月頃に生起する急激な血中テストステロンの上昇に35-51日遅れて精液中精子が高濃度となる.また,高濃度の期間は血中テストステロンの減少後21-47日間継続するという明らかな年周期性が見られた.精液中精子の高濃度出現が血中テストステロンの上昇後1-2か月遅れて見られ,血中テストステロンの減少後1-2か月継続するという動態は,尿沈渣精子の高濃度の出現(新田他,2005)と同様であった.

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カブトクラゲの繁殖

2011年 第55回水族館技術者研究会

展示課 ○石川 訓子

有櫛動物門有触手綱のカブトクラゲBolinopsis mikado は,その形や櫛板列の光の反射等展示効果は高い.しかし体が脆弱であり展示には傷の無い個体の確保が必要であるため,新潟市水族館では2008 年から繁殖を行っている.カブトクラゲの累代飼育の報告は無いため,今回安定した累代飼育を可能にする繁殖方法の確立を目的に2010 年5 月8 日より採卵と育成データの集積を試みた.

0.5μm フィルターによるろ過海水を入れたビーカーに,1L あたり1 個体の密度で成熟個体(平均全長65.0 ㎜)を夕方収容し,通気無しで一晩暗条件下に放置,翌朝静置した底面水から受精卵を回収した.卵は無色透明で,卵径は0.675±0.034mm(平均±SD:以下同様)(N=10),14L 円形水槽に150個程度ずつ収容しごく弱く通気した.回収日の夕方にふ化し,ふ化時の触手面最大幅(以下幅)は0.275±0.025 ㎜(N=10)であった.ふ化半日後には2 本の触手を持つ幼生となり,栄養強化したシオミズツボワムシを与え,5 日目より同アルテミアふ化幼生を併用した.ふ化後10 日目(幅約3.5㎜)より変態が開始され,14 日目(全長約12 ㎜)で触手は残るが袖状突起,耳状突起が形成された.16 日目(全長約15 ㎜)で触手は消失し変態が完了した個体から65L 四角型水槽に移し,ふ化後30 日で全長約45 ㎜に達した.なお換水は3~5 日おきに行い,飼育水温は全て20℃に設定した.

幼生期の瞬間成長速度率は47.5±13.5%であり,粕谷ら(2002)の報告とほぼ等しく今回の手法は本種に適した育成方法であると示唆された.また40 ㎜に成長した個体数/採卵親個体数は,2009年は3/8,3/5,10/14 であったのに対し,2010 年は37/11(5 月8 日採卵)次世代は55/5(12 月4日)と向上が見られた.なお同方法を用いたオビクラゲとツノクラゲの繁殖は,長期育成できなかったが,今後この手法を応用,改良することで他の有櫛動物の繁殖は可能であると考えられる.

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ハマクマノミを用いて検討した海産仔稚魚展示の試み

2010年 第54回水族館技術者研究会

展示課 ○ 新田 誠

海産仔魚の展示は,分散や繁殖習性などの生活戦略を解説する上で効果的である.しかし,①強い水流や打撃などの物理的刺激に対して脆弱である,②仔魚や餌料の流出を防ぐ目的から止水飼育が適しているが,水質改善に大量の換水が毎日必要となる,③個体が小さく肉眼的に視認しにくいなどの飼育展示上の諸問題があり,従来は展示が困難であった.この度,改善策を施した常設展示水槽にて,孵化直後のハマクマノミの展示を試み,良好な結果を得たので報告する.

展示には角型のアクリル水槽(L600×W300×H400㎜)を使用し,刺激を軽減するためにパネル板で隔てて設置した.観察面は透明アクリル板で覆い,水槽ガラス面との間に約2㎝の空間を設けた.育成方法は,止水飼育による透明度の低下や,換水時に起こる持続展示の中断を防ぐために濾過循環式とした.循環水は25.0℃前後に加温した.循環水量は,仔魚への流速の配慮と餌料の流失防止を考慮して,水温保持の必要量まで極力抑えた.仔魚の流出防止には,排水口をスポンジフィルターで覆い,周囲の排水速度を低下させた.対象が小さいため,水槽上部へ仔稚魚の発生段階を示すスケッチを表示し,顕微鏡下の卵発生などの映像を小型のデジタルフォトフレームで自動再生した.

展示水槽への循環水量は,100~300(ML/分)の注水で,飼育水温,餌料の残存率,稚魚期までの生残率を調べた結果,約150mL/分(換水率3.1回/日)が適量であった.循環水量150 ML/分で飼育展示した結果,水温24.3±0.1℃ (循環水温25.5±0.1℃,室温22.2±0.2℃),餌料として約20個体/MLで投与したシオミズツボワムシの24時間後の残存率は平均44.3%であった.稚魚期までの生残率は22.2~29.0%であり,比較で止水飼育した際の稚魚期までの生残率3.1~9.9%を上回った.展示面では,未成魚や産卵中の親魚に隣接して展示することで,生活史を理解し易い効果が得られた.

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ビタミンE欠乏症を疑ったフンボルトペンギン雛の連続死

2010年 第20回ペンギン会議全国大会

展示課 ○岩尾一、山田篤

ビタミンE(トコフェロール)は、強力な抗酸化作用を持ち、細胞膜の安定性や脂質代謝に関わる脂溶性ビタミンである。ビタミンEが欠乏した動物の体内では、活性酸素により、生体膜のリン脂質に過酸化脂質が蓄積し、組織傷害や脂質代謝異常が起きる。ビタミンE欠乏症としての症状には白筋症、汎脂肪織炎、溶血性貧血、高脂血症などがみられる。

7, 8 家禽やワニではビタミンE欠乏による産卵率や受精率, 孵化率の低下、孵化仔の死亡率の増加も報告されている。

11.13 海産魚類は高度不飽和脂肪酸を多く含み、冷凍保存状態でも、脂肪酸の酸化とビタミンEの消費が進行し、長期間冷凍保存した海産魚類ではビタミンEが欠乏しやすい。したがって、飼育下の魚食性動物は潜在的にビタミンE欠乏症を発症する可能性が高いと想定され、特に冷凍餌料を与えている場合は、魚食性動物の餌にはビタミンEを日常的に添加することが推奨されている。

3, 4, 16 飼育下にある魚食性の鳥類(ペリカン1、サギ12、ウミスズメ15)や哺乳類(アザラシ6、アシカ2,5)、爬虫類(ガータースネーク9, ワニ10,11)では、ビタミンE欠乏症が古くから報告されているものの、ペンギン類での報告はない。3 新潟市水族館で孵化したフンボルトペンギンの雛で、ビタミンE欠乏症と考えられる連続死亡例がみられたので報告する。

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生物多様性条約と動物園水族館~CEPAの紹介(話題提供・ポスター)

2010年 第50回日本動物園水族館教育研究会

管理課 大和 淳

2010年10月18日~29日に名古屋市で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催され、愛知ターゲットをはじめとするいくつもの議案が採択、決定された。

2002年にオランダで行われたCOP6で「2010年目標」が採択されたが、ほとんど達成されなかった。日本のNGO である生物多様性条約市民ネットワーク(CBD市民ネット)はその原因のひとつを「2010年目標が認知されていなかったから」とし、2011年からの10年を「国連生物多様性の10年」とするよう提案。それが日本政府案となり、国連採択するようCOP10で勧告決議された。その中でも「広報、教育、普及啓発(CEPA)」が重要と認識され、「国連生物多様性の10年のためのCEPA活用及び拠点・運営体制の設置、並びにCEPAの関連ステークホルダーにILC(先住民族等)を含むこと等」が決定された。

CEPA(Communication,Education And Public Awareness)とは、生物多様性条約第13条に定められた「公衆のための教育及び啓発」についての活動義務であり、生物多様性保全に関わる者にとって重要な「ツール」であり「キーワード」である。愛知ターゲット等を推進するべく国内のセクターを超えたCEPA組織づくり、情報共有プラットフォームづくり、作業計画の策定をする必要がある。

動物園と水族館は年間のべ6500万人もの来場者がある施設である(2009年、JAZA加盟園館データより)。CEPAにとって動物園水族館は非常に重要な「場」である。同時に、動物園水族館職員がCEPAという「ツール」「キーワード」を知り、CEPA組織と連係することで、より効果的な生物多様性保全の取り組みができると考えられる。

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フンボルトペンギンの人為的なペア組み替え

2010年 第20回ペンギン会議全国大会

展示課 ○山田 篤

フンボルトペンギンは、CITESによって国際商取引が禁止されているため、附属書に掲載された1980年代初頭から現在に至るまで野生個体が輸入されていない。そのため、野生由来のファウンダー(創始個体)はすでに死亡しているか、生きていても繁殖不能な年齢に達している。2008年末の血統登録調査により、国内77施設で1675羽の飼育が確認されているが、近親交配を避けるためと、同一家系の子孫が増えすぎるのを防ぐために、繁殖制限を行っている施設が多い。 当館では、1977年に川原鳥獣店より12羽を購入して飼育を開始した。そのうちの8羽が繁殖に関与して、現在は74羽に増えている。少ないファウンダーからの繁殖であるため、当館も例に漏れず、近親交配を避けるための繁殖制限を行っている。

2008年末に形成されていた31ペアのうち、近親交配になるものが12ペア、オスが高齢で受精能力がないものが7ペア、どちらか一方が生理的もしくは遺伝的な異状で繁殖できないものが4ペア、メス同士のものが4ペアで、特に問題がなく繁殖可能なものはわずか4ペアであった。 フンボルトペンギン繁殖計画では、人為的なペアの解消がストレスを与えるとし、種卵の移動による新たな家系導入を推奨しているが、導入個体が自園館で飼育している個体と子孫を残すと、新たに近親交配となるペアが発生する恐れがある。当館でも、他の園館から種卵の移動による新たな家系導入を行っているが、導入個体と当館ファウンダー血縁個体がペアを形成して繁殖し、その繁殖個体が血縁上の問題で繁殖できない状態に陥っている。

そこで、今後の繁殖個体群の形成を優先し、人為的なペア組み替えの試みを下記の3例実施した。

  1. 2009年3月に、近親個体とペアを形成していたオスとメス各2羽を、ペアを人為的に解消して繁殖用隔離スペースに移動した。しばらくの間は4羽が一緒に行動していたが、3か月後の6月に1ペアが形成された。
  2. 上記の組み替えによって展示スペースに残されたオス1羽のペアリングもできた。この個体はペアを人為的に解消した1か月後に新たにペアを形成したが、相手が当該個体の子であったため、何度か人為的な操作(個体の移動)を行って血縁のない個体とのペアができた。このペアは9月に産卵したが、残念ながら胚の発生が止まって繁殖には至っていない。
  3. 昨年の繁殖個体(オス)がペアの相手を探していて次々と血縁のある個体とペアになった。そのため、2009年9月にメス同士のペアを人為的に解消して一方を隔離し、もう一方の個体と当該個体のペアリングを展示スペースで行った。2週間後に狙い通りにペアを形成したが、未だに巣を確保できないでいる。

以上の結果、全ペア数は29に減ったが、特に問題がなく繁殖可能なペアが7ペアに増加した(①の残りの2個体はペアリング中)。今後の繁殖に期待する。ただし、オスの高齢化が進んでいるため、あと2,3年で繁殖不能な年齢に達してしまうと考えている。その間にできるだけ受精卵を回収して仮親に預けて当館のファウンダー血縁個体を増やし、同時に種卵の移動による新たな家系導入も計画的に行って、当館の飼育個体群をより長く存続させようと考えている。

発表資料(別ページへジャンプします)

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